東日本大震災以降,岩手県沿岸南部地域の主力品目であるキュウリの生産量や販売額は減少しており,産地復興に繋がる技術が求められている.本地域は降雪日が少なく,冬期の日照時間は比較的長い.そのため,多層保温被覆資材(以降,保温資材)を園芸施設の内張に使用し開閉する技術は,本地域における冬期の暖房燃料使用量削減に有効と考える.暖房燃料使用量は保温資材の開閉時刻に依存しており,保温資材を既に導入している生産者は,これまでの園芸施設内部環境データおよび経験からその最適な開閉時刻を決定している.保温資材を交換した場合,その最適な時刻を新たに模索することになるため,異なる保温資材における開閉適時の傾向を把握することが重要である.まず簡易な熱収支計算を用いて暖房燃料使用量を算出するモデルを作成した結果,本モデルによる暖房燃料使用量の加温開始時刻は,実際に測定した時刻より早く,終了時刻は遅くなる傾向が見られたものの,暖房燃料使用量の大まかな日変動を捉えることができた.次に,このモデルを異なる園芸施設の向き・保温資材に適用し,それぞれの開閉適時を算出した.その結果,保温資材を熱貫流率の大きい素材に変更した場合,開時刻は早く,閉時刻は遅くなる傾向が見られ,日射透過性の大きい素材に変更した場合,逆の傾向になることが明らかになった.保温資材を内張に導入している生産者は,これまでの内張開閉時刻にこの傾向を考慮することで,比較的労力を掛けずに保温資材交換後の開閉適時を求めることができる.