2021 年 2021 巻 8 号 p. 211-230
福島県の被災地域では大規模水稲生産法人のほか,風評被害を受けにくいハウス農家を中心に営農再開している.生産者は避難に伴う転居先から生産現場まで距離がある「通い農業」の状態にあり,加えてハウスや耕地が分散していることが多いため,生産現場を頻繁に訪れることが難しい.一方,生産者は情勢の変化に応じて新しい換金作物への取り組みも始めている.このような実状に対応するため,営農形態の変化に応じた柔軟性のある遠隔監視システムが求められている.しかし,市販の遠隔監視システムは通年での契約を想定しており,育苗期間など短期利用には高価である.そこで,我々はWeb API を有する市販IoT プロトタイピング・キットとメッセージングアプリによるハウス遠隔監視システム「通い農業支援システム」を考案し,営農再開地域のハウスで多くの作物に対して実用試験を行った.本システムは温度,湿度,土壌水分,画像データ等に加えて,取得データの統計値やグラフを通知でき,データ通知のエラー率 1% 未満,温度の精度約± 1 ℃で運用できた.また,生産者が必要な間隔でデータを得て遠隔地の管理作業の要否を判 断できるなど,実用性・有効性を確認した.