日本食品科学工学会誌
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技術用語解説
2型糖尿病
島田 朗
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2009 年 56 巻 12 号 p. 665

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抄録

糖尿病とは,インスリン作用不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝症候群である.糖尿病は,成因と病態の両面から,1型,2型,その他の特定の機序・疾患によるもの,妊娠糖尿病の四つに分類される(表1).その一つが,2型糖尿病である.2型糖尿病には,インスリン分泌低下を主体とするものと,インスリン抵抗性が主体で,それにインスリンの相対的不足を伴うものなどがある(表2).欧米においては,肥満に伴うインスリン抵抗性から糖尿病状態に至る場合が多いのに対して,我が国においては,肥満がなくインスリン分泌が低下して糖尿病状態に至る例も珍しくない.2型糖尿病の場合は,口渇,多飲,多尿,といった典型的な糖尿病症状を認めない場合も多く,最近では無症状で健康診断にて偶然発見されることが多い.高血糖状態が長期間続くと,以下に述べる(慢性)合併症の出現に繋がる.糖尿病の三大合併症は,細小血管障害である,網膜症,腎症,神経障害である.また,大血管合併症として,脳血管障害,冠動脈疾患,下肢閉塞性動脈硬化症などがあるが,これらは,糖尿病に必ずしも特有の合併症ではないが,非糖尿病患者に比べて2~4倍頻度が高く,患者の生活の質を低下させるのみならず,生命予後を規定する疾患群として重要である.2型糖尿病の治療の基本は,食事療法(標準体重1kgあたり25-30kcal/日),運動療法であるが,前述の合併症,あるいは,他の合併疾患の状態を考慮する必要がある.特に,腎症が存在する場合は,一般に塩分やタンパク質の摂取量についても制限が必要になる.これらの治療によっても血糖コントロールが不十分な場合,経口糖尿病薬の適応となる.現在,我が国では,スルフォニル尿素薬,速効型インスリン分泌促進薬,ビグアナイド薬,インスリン抵抗性改善薬,アルファグルコシダーゼ阻害薬の五つのジャンルが使用可能である.薬剤選択にあたっては,インスリン分泌能やインスリン抵抗性の状態など個人個人の2型糖尿病の病態に加え,各薬剤の副作用などを考慮して選択する.また,インスリン療法は,以前は最終手段であった時代もあるが,現在では,比較的早期から導入し,代謝状態が安定した後は中止するなど,考え方が変化している.インスリン療法のゴールデンスタンダードは,頻回注射法であるが,最近では初期のインスリン導入法として,経口糖尿病薬に基礎インスリンを併用する方法も見直されている.
なお,2型糖尿病の発症予防の試みは,欧米を中心に行われているが,食事,運動などの生活習慣への介入により発症が抑制されるのみならず,上述のビグアナイド薬によるインスリン抵抗性の改善やアルファグルコシダーゼ阻害薬による食後高血糖への介入も発症予防に有用である可能性が示唆されている(ただし,保険適用外であることに注意).

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© 2009 日本食品科学工学会
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