Saccharomyces cerevisiaeは古くから人類の食生活を支えてきた重要な酵母だが, 市販されているS. cerevisiaeは多様性に乏しく, 種類によって食感や風味の違いが生じにくい. 一方, 自然界から単離した酵母は市販酵母とは異なる特性を有しているため, 酵母を使用した食品は既存の製品との差別化が容易になる. そこで本研究では, 鹿児島県のブランド酵母を開発するために, 鹿児島県立短期大学構内で酵母を単離してその産業的価値を明らかにすることを目的にした. 単離した3株の酵母をシークエンス解析した結果, 2株がS. cerevisiae (Sc-KPC1およびSc-KPC2), 1株がLachancea fermentati (Lf-KPC1)であることが明らかになった. 糖資化性試験を行なった結果, Sc-KPC1とSc-KPC2はマルトース存在下で有意な増殖を見せなかったが, Lf-KPC1は幅広い糖に資化性を示した. 糖含有量が異なる3種類のパン生地で発酵試験を実施した結果, Sc-KPC1とSc-KPC2はともに市販酵母と比べて同等以下の発酵速度を示したが, Lf-KPC1は同等以上の発酵速度を示した. 低糖生地を発酵後に1週間冷凍してから発酵試験を実施した結果, 全ての酵母は市販酵母と比べて発酵速度が速かった. Lf-KPC1を高糖液体培地で培養したところ, 市販酵母Cy1と比べて増殖速度が遅く, CO2やエタノールの産生量は低かった. Lf-KPC1の培養液中には高濃度の乳酸が存在したことから, Lf-KPC1はアルコール発酵と乳酸発酵を実行することが示された. Lf-KPC1とCy1を用いて製作したパンの官能評価試験を実施した結果, 「外観(色)」, 「香り」, 「味(甘さ)」, 「やわらかさ」, 「総合評価」では有意な差が見られなかったが, 「しっとりさ」についてはLf-KPC1の方が有意に高かった. 以上のことからLf-KPC1は優れた発酵特性を有しており, 市販酵母と同等以上の産業的価値があると言える.
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