日本食品科学工学会誌
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シリーズ—研究小集会(第21回)水部会
食品の物性と水
熊谷 仁
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2015 年 62 巻 12 号 p. 593-603

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抄録

食品の物性と水に関する2つのテーマに関して概説した.第一に物性に関するものとして「ハイドロコロイドの物性と嚥下困難者用介護食」,第二に水に関するものとして「食品の水分収着とガラス転移」である.
パーコレーションモデルは,ゾル-ゲル転移点近傍における力学物性の挙動を高分子の分散構造を考慮しつつ理解するうえで有用である.ハイドロコロイドのレオロジー的性質は誤嚥のしやすさと関連の深い咽頭部の食塊の流速に影響を与える.増粘剤溶液に関して,粘度(μ),動的粘性率(η'),複素粘性率(η*)は,咽頭部最大流速Vmaxとの相関が高く,嚥下困難者用介護食の物性指標として有用であることが示された.ゲルに関しては,Vmaxの減少はゾル-ゲル転移点以上の濃度領域でゆるやかになった.
水分収着等温線は,水と固体の相互作用に関する情報を与える.多くの食品の水分収着等温線は,GAB式で良好に回帰できる.溶液熱力学を用いて,水分収着等温線のデータから,水と固体両方の部分モル量を評価することができる.ガラス転移の概念は,非酵素的褐変速度や粉体の固結など食品の多くの現象を説明可能である.ガラスは,ガラス転移点Tgといわれる温度でラバーに変化する.水は,食品の重要な可塑剤であり,Tgを下げる役割をする.水分収着等温線から,溶液熱力学を用いて求められる固体側の自由エネルギー変化ΔGasは,収着に伴うガラス転移点の低下ΔTgと高い相関があった.

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© 2015 日本食品科学工学会
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