抄録
トサカノリ(Meristotheca papulosa)多糖画分の化学組成,ゲル化能(ゲル化最小濃度)などについて検討し,次の結果が得られた。
(1) この多糖は不均一で, K1-, K2-, λ-画分の3成分に分別された。分別試薬としては,塩化カリウム,塩化ルビジウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム,塩化バリウムなどが有効で,各画分の塩類に対する挙動は次の通りであった。
K1-画分: K+, Rb+などにより沈殿する。
K2-画分: K+, Rb+およびCa2+, Mg2+, Ba2+などにより沈殿する。
λ-画分:いずれの試薬によっても沈殿せず上澄に溶存する。
またK1-, K2-, λ-画分の収率は,それぞれ3.3, 17.4, 19.1%であった。
(2) セルロースアセテート膜による電気泳動図から,λ-画分はさらに2成分からなるものと推定された。
(3) K1-, K2-, λ-画分の構成糖モル比(D-ガラクトス: 6-O-メチル-D-ガラクトース: 3, 6-アンヒドロ-D-ガラクトース: SO3Na)は,それぞれ1:0.17:0.70;1.91, 1:0.20:0.89:2.15, 1:0.09:0.34:1.34で化学組成を異にする。またアルカリ処理による硫酸基含量減少率,アンヒドロ糖含量増加率は,いずれもλ-画分がK-画分に比して著しく高かった。
(4) IRスペクトルでは, K-画分とλ-画分との間に差異が認められた。とくにλ-画分では,アルカリ処理により820cm-1の吸収が消失し, 800cm-1近辺の吸収強度の増加が認められた。これらの結果から, λ-画分には,アルカリ処理により3, 6-アンヒドロガラクトースを生成する糖硫酸エステル残基がK-画分に比して多量に存在することが推定された。
(5) K1-, K2-, λ-画分のゲル化能は,それぞれ1.1,0.65, 3.0%であるが,アルカリ処理によりλ-画分のゲル化能は, 1.75%にまで向上した。