日本食品工業学会誌
Print ISSN : 0029-0394
丸干しイワシの製造工程における過酸化水素の挙動
宮本 文夫佐伯 政信芳澤 宅實
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1994 年 41 巻 6 号 p. 425-432

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抄録

丸干しイワシ製造工程中のH2O2の挙動及び最終製品における残存について検討した.
(1) 塩漬け及び漂白工程後のマイワシにおけるH2O2の残存は浸漬液へのH2O2添加量が1000μg/ml以上の条件のものに認められ,残存量は0.2~71.9μg/g (浸漬液への添加量に対する残存率は0.02~1.44%)であった. H2O2の残存にはH2O2添加量や製造方法の他に食塩水の濃度も強く関与していた.水洗工程後のマイワシにおけるH2O2の残存は5000μg/mlの添加条件のみに認められ,残存量は0.4~1.2μg/g(残存率は0.008~0.024%)と微量で,水洗工程で97.7%以上の残存H2O2が除去された.乾燥工程後には調製した全ての丸干しイワシでH2O2の残存は認あられなくなった.マイワシ中のH2O2の除去については乾燥工程の方が水洗工程より除去効率が高いものと考えられた.
浸漬液への添加量が5000μg/ml以下であれば,丸干しイワシ製品中にはH2O2の残存は認められないことから, 30~750μg/mlのH2O2添加浸漬液を用いて製造した丸干しイワシからの残存H2O2の検出報告については, H2O2処理した丸干しイワシで生成した脂質過酸化物がヨウ素滴定法でH2O2と誤認されたものと推察される.
(2) 丸干しイワシ製造に使用したH2O2含有食塩水中でのH2O2の残存率が0~67.6%であったのに対し,H2O2水中の残存率は12.3~96.4%と高かった. H2O2含有食塩水及びH2O2水中のH2O2残存率はいずれも食塩濃度の影響を強くうけていた.また, H2O2含有食塩水では153μg/ml以上, H2O2水では954μg/ml以上の多量のH2O2が存在しないとマイワシにはH2O2が残存しないことが判明した.
(3) 原料マイワシ,対照の丸干しイワシ及びH2O2を5000μg/ml添加した浸漬液で調製した丸干しイワシの全てからカタラーゼ活性が14.2~46.7U/gの範囲で検出された.この結果から,製造工程で添加したH2O2の分解及び消失は主として力タラーゼによるものと考えられ,製造条件によるマイワシや浸漬液中のH2O2残存率の差はカタラーゼの作用時間や活性度の相違が原因と考えられた.

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