抄録
生体内埋め込み型医療デバイスの表面処理について解説する。一般の材料は生体組織と接触すると様々な好ましくない生体反応を誘起する。これが,埋め込み型医療デバイスを利用した治療に大きな問題となっている。特に高齢者に対しては,安全・安心な医療を提供するという観点からは,生体親和性の高いバイオマテリアルが求められる。表面の特性を改善するために,細胞膜表面の構造に着目し,リン脂質極性基を有するポリマー,2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)ポリマーを創製した。 このポリマーを利用して,運動器障害の修復に利用する人工股関節の寿命延長を試みた。すなわち,関節慴動面における摩耗を低減し,摩耗粉による生体反応を低減する試みである。人工股関節に利用されている架橋ポリエチレン(CLPE)にMPC をグラフトすることで,表面にポリマー層を構築すると,摩擦抵抗が激減し,これに対応して摩耗がほぼ抑制された。また,人工関節周辺の骨溶解も抑制され,人工股関節置換手術の寿命の延長が見込まれた。現在,日本において臨床使用できるようになり,高齢者医療に貢献している。