抄録
1996年に海産魚類に由来する細菌からエイコサペンタエン酸(EPA)の合成に関わる遺伝子(pfa)が初めてクローニングされた。これは深海のサンプルから単離された好冷菌がEPA やドコサヘキサエン酸(DHA)などの長鎖多価不飽和脂肪酸(LCPUFA)をもち,それが細菌の低温,高水圧への適応に関わると報告されてからおおよそ10年後のことである。LCPUFA合成に関わるpfa遺伝子は通常pfaA-pfaEの5つの遺伝子からなる。この遺伝子群はポリケチド合成に関わる遺伝子と部分的に相同であり,多機能酵素タンパク質をコードする。現在,EPAまたはDHA合成に関わるpfa遺伝子とも大腸菌での異種発現が可能である。現在pfa遺伝子はデータベースの検索によって,低温環境に関わらず,熱帯・亜熱帯の海洋環境に由来する細菌に広く分布することが明らかになっている。しかし,面白いことに典型的なpfa遺伝子はγ-プロテオバクテリアに属する限られた属の細菌にのみ分布する。最近の研究によってpfa遺伝子はoleA-oleD遺伝子と共存することによって超長鎖多価不飽和炭化水素であるヘントリアコンタノナエン(C31:9)の合成に関わることが明らかにされている。さらに,pfa遺伝子とole遺伝子はLCPUFAはもたないが,C31:9をもつ絶対嫌気性菌にも存在することから,pfa遺伝子の本来の存在意義はC31:9の合成にあるとも考えられる。本総説ではLCPUFA合成に関わるpfa遺伝子の構造についてまとめ,pfa遺伝子の細菌における分布と,実用的利用の可能性について述べる。