2019 年 19 巻 1 号 p. 13-20
ユニラメラベシクルは,水中で固体表面に自発的へ付着し,崩壊後に表面上を拡散しながら高度に配向した均質な二分子膜を形成すると言われている。この非常に興味深い現象は,広く研究されるばかりでなく,産業的にも応用されてきたが,そのプロセスや駆動力に関する理解はいまだなされていない。近年,我々は,高速原子間力顕微鏡を使用し,ジオクタデシルジメチルアンモニウムブロミド(DODAB)が作るベシクル(ゲル-液晶転移温度Tc=44℃)の,二分子膜形成過程の直接観察に成功した(25℃)。ベシクルは瞬間的にマイカ表面上で二分子膜ドメインに転移したが,それらが固体表面上で動いたり,融合して均質な膜になることは無かった。さらにTcが高い別のカチオン界面活性剤C18EACのベシクルを用いて同様の観察を行ったところ,ベシクルから二分子膜に転移する途中過程で,四分子膜を経由していることが明らかとなった。これは,C18EACの疎水基間のより強い凝集性によって,分子の動きが抑制された結果であると考えられ,ベシクルの外殻を形成する界面活性剤の水和結晶状態が,その成膜プロセスに大きな影響を与えることが明らかとなった。