2019 年 19 巻 4 号 p. 153-160
アラキドン酸に代表されるω6- 多価不飽和脂肪酸(PUFA)代謝物は炎症反応を誘導・助長する役割を担っている。一方,エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)に代表されるω3-PUFAは抗炎症作用を示すことが知られているが,その詳細な抗炎症作用誘導メカニズムについては長らく不明であった。近年,ω3-PUFA由来の脂質代謝産物の同定が進み,ω3-PUFAであるEPAやDHAから代謝されて生じる脂質メディエーター(レゾルビン,プロテクチン,マレシンなど)に強力な抗炎症・炎症収束作用が見いだされ,ω3-PUFA摂取による抗炎症作用の実効分子になっていることが明かになってきた。筆者らは最近,EPA代謝産物の1つである17,18-エポキシエイコサテトラエン酸(17,18-EpETE)を抗アレルギー性脂質メディエーターとして同定した。さらにその後の研究から17,18-EpETEはGタンパク質共役受容体(GPR)であるGPR40に作用し,好中球の遊走を抑制することで抗炎症性の脂質メディエーターとしても機能することも明らかにしている。また,ω3-PUFAは腸内細菌叢にも影響を与えることが知られるようになり,腸内細菌叢の変動を介する事でも宿主免疫制御作用を発揮することが示唆されている。そこで本稿では,脂質摂取により生じる脂質代謝産物の変化,または腸内細菌叢の変動に起因する疾患の制御について紹介する。