2023 年 23 巻 2 号 p. 73-78
単細胞真核藻類のユーグレナ(和名ミドリムシ)は,好気・嫌気の両環境にフレキシブルに適応できる代謝系を有している。細胞が嫌気状態にさらされると,貯蔵多糖パラミロン(直鎖状β-1,3 グルカン)を分解して,脂肪酸-脂肪アルコールエステルであるワックスエステルを生成する。この代謝過程ではATPを消費しないミトコンドリア局在脂肪酸合成系が利用されることから,長らく「ワックスエステル発酵」と呼ばれてきた。しかし,近年の研究から,ATPを消費しないだけではなく,ミトコンドリア嫌気的呼吸鎖と共役したATP合成が同時に行われていることが明らかとなってきた。本稿では,嫌気下でのワックスエステル合成発見から,現在明らかになっている代謝メカニズムまでを概説する。