2026 年 26 巻 8 号 p. 309-316
三相乳化法は,柔らかい親水性ナノ粒子が油水界面にファンデルワールス引力によって不可逆的に付着することでエマルションを安定化する技術である。分子の可逆的な吸脱着に依存する従来の界面活性剤乳化とは異なり,この原理的差異によって,三相乳化エマルションは極めて特異な物理化学的物性を示す。本稿では,この親水性ナノ粒子の粒子間相互作用に基づく「三相乳化法」の理論的背景とその特異な乳化特性について概説する。水相および油相のいずれにも溶解しない独立相である親水性ナノ粒子の不可逆的な界面付着機構は,界面張力の低下や接触角に支配される従来の乳化法(示強変数型)とは本質的に異なり,物質量(構成原子数)に依存する「示量変数型」の乳化法として位置づけられる。この特異な機構により,従来の方法では乳化が困難な油を含む,多様な油の乳化を可能にする。また,内相油の固液相転移や塩・酸の添加といった環境変化,さらには異種油剤エマルションの混合に対しても高い乳化安定性を維持する。さらに,エマルション構造を維持したままでの固体表面への定着など実用的な物性を有する。最後に,乳化剤であるナノ粒子自体への機能性デザインの可能性を含め,食品,化粧品,医薬品,および工業材料分野における今後の幅広い応用展望について述べる。