2021 年 63 巻 2 号 p. 85-95
高血圧患者への降圧薬として用いられるカルシウム拮抗薬は,歯肉増殖症を発症させることが知られている。歯肉増殖症は著しい歯肉の増殖に加え,歯列不正など,審美的な問題を生じることがある。その発症機序については不明な点も多いが,プラークは歯肉増殖症発症の病因に関係している。治療としては,可能であれば内科医へ薬剤の変更依頼,プラークコントロールとスケーリング・ルートプレーニングを中心とした歯周基本治療を行い,必要に応じて歯周外科手術が適応となる。本症例報告患者は高血圧症を有する41歳男性で,カルシウム拮抗薬による薬物性歯肉増殖症を伴う慢性歯周炎(ステージIII,グレードC)と診断され著しい歯肉腫脹,出血,上顎前歯部の動揺と歯列不正をきたしていた。内科医による服用薬の変更後,口腔衛生指導およびスケーリング・ルートプレーニング(SRP)やPMTCなどの歯周インフェクションコントロールを徹底し,再評価後,歯肉増殖は改善されたが,4 mm以上のプロービングデプスが残存した。患者が多忙であり歯周外科の同意が得られないため,再SRPと局所薬物配送システムを行った。また,患者には繰り返しプラークコントロール,プロフェッショナルケア,血圧コントロールの重要性を説明し,モチベーションを高めた。その結果,非外科的歯周治療のみで良好な歯周組織状態及び歯列の改善が得られた。