抄録
多くの被子植物では,胚発生で生じた茎頂分裂組織と根端分裂組織が両極で無限成長し,鉛直軸をもった植物体が形成される.カワゴケソウ科は熱帯・亜熱帯の急流の岩上に生育し,そのため激しい水流と固い岩により鉛直方向への成長が妨げられ,水平方向に成長する扁平な植物体を形成する.祖先的なトリスティカ亜科では,実生には茎頂分裂組織と根端分裂組織が存在し,鉛直成長を行う.一方で,著しく多様化したカワゴケソウ亜科では,実生の段階で茎頂分裂組織と根端分裂組織の縮小・喪失が起き,胚軸から側方に生じた不定根が不定シュートを形成しながら水平方向へ成長する.トリスティカ亜科とカワゴケソウ亜科における胚発生の比較発生学的研究から,実生の茎頂分裂組織と根端分裂組織の縮小・喪失は,それぞれの分裂組織の始原に関わる細胞の分裂パターンの変更が引き起こしたことが明らかとなった.本稿では,カワゴケソウ科の水平ボディプランの進化に関わった鉛直成長の喪失と,それに関わる2つの分裂組織の発生機構の変更について概論したい.