抄録
二物体が接近し、互いに重なり合い、再び離れる、といった運動事象は、二物体が互いにすれ違ったようにも衝突し跳ね返るようにも解釈できる。本研究ではそのような両義的な事象をチンパンジーとヒトがどのように知覚するかを検討した。実験には、タッチパネルつきのCRTモニタを用いて、刺激の呈示および反応の記録をおこなった。テストに先立ち、被験体は画面上に呈示された複数の物体のうち、最初に点滅したものを追跡する課題を学習した。テストセッションでは、二物体が接近し、互いに重なり合い、再び離れる、という両義的な事象において被験体が「衝突」とvのどちらの反応を示すか、また、そのようなテスト事象に同期して生じる衝突あるいは通過の文脈事象の効果はあるかを調べた。実験の結果、ヒトでは先行研究と同様に両義的な事象において「通過」が優位に知覚された。一方でチンパンジーでは、そのような一貫した傾向は見られなかった。視覚的文脈の効果は、ヒト、チンパンジーともに見られた。つまり、両義的なテスト事象の知覚において、明らかに衝突して知覚される文脈事象が付加された場合、「衝突」して見えたとする反応が増え、通過型の事象が付与された場合には「通過」して見えたとする反応が増えた。以上の結果より、ヒトとチンパンジーで両義的な事象における知覚判断に差異があること、また、チンパンジーにおいてもヒトと同様に文脈事象とテスト事象の知覚的グルーピングが、衝突/通過の知覚に影響を及ぼすことが示唆された。本研究は、文部科学省科学研究費(12002009, 21世紀COE[京都大学D2])の助成を受けておこなわれた。