抄録
マダガスカルのベレンティ保護区には,1970年代と1980年代に染色体数の異なるチャイロキツネザル2種(Eulemur fulvus rufus: 2n=60 と E. collaris: 2n=52)が少数個体で導入され,集団が急速に成長してきた.前回大会では,このチャイロキツネザル集団の核型(染色体の数と形態)とミトコンドリアDNA D-loop 領域の塩基配列を分析し,雑種第一代よりも交配がすすんでいること,集団設立には E. f. rufusと E. collaris の両種のメスが関与していることを報告した.本研究では,この種間雑種集団におけるマイクロサテライトDNA を分析し,集団の遺伝構造を把握することを目的とした.
ベレンティの雑種 81個体,純粋な E. f. rufus 11個体および E. collaris 7個体から試料を採取した.チャイロキツネザル,マングースキツネザルおよびワオキツネザルで開発されたマイクロサテライトDNA 19遺伝子座を分析し,そのうち本集団での利用に適した12遺伝子座を分析対象とした.
各遺伝子座の対立遺伝子数はベレンティ集団において 4 -13,純粋な 2種をあわせると 5 - 16 であり,純粋な2種を区別する対立遺伝子も見いだされた.ベレンティ集団では,それぞれの種に由来すると考えられる対立遺伝子が個体により異なる比率で観察され,雑種第一代の後に数世代を経たことによる様々な雑種度の個体が存在することがわかった.ベレンティ集団でのヘテロ接合率は0.30 - 0.90 であった.他のキツネザルの自然生息地の集団との比較から,ベレンティ集団は,少数個体が創始者となった集団であり,他集団からの遺伝子流入がないにもかかわらず,遺伝的多様性が同程度に保たれていることがあきらかになった.核型およびミトコンドリアDNA D-loop の分析結果とあわせ,この集団の遺伝構造について考察する.