抄録
農作物被害が増加しているニホンザルの保護管理を考えていく上で、その環境利用を明らかにすることは、生息地管理、被害管理の観点から重要である。ここでは、行動圏内に存在する植生の差異とサルの環境利用の違いとの関連について着目した。人口針葉樹林と堅果を産出する広葉樹林では、サルが利用できる食物資源の量が異なる。とくに冬期には、人口針葉樹林が多い地域に生息するサルのほうが、堅果が落果として存在する広葉樹林帯に生息するサルよりも農地に依存することが予測される。そこで植生の異なる2地域に生息する農作物加害群を対象に、冬期の環境利用の調査を行なった。調査は2005年12月から2006年2月まで行なった。常緑広葉樹林帯に生息するKH群(三重県亀山市)、人口針葉樹林が多く、落葉広葉樹林と常緑広葉樹林がパッチ状に分布する地域に生息しているNB 群(三重県名張市)である。1ヶ月に5~7日、ラジオテレメトリ法によって群れの終日追跡を行なった。1時間に一度、群れの位置を記録し、利用していた植生を明らかにした。その結果、KH群よりもNB群のほうが集落とその周辺林に依存している傾向があった。行動圏内に針葉樹林が多いNB群では、群れの位置ポイントのほとんど(85%)が集落から100m以内であり、農地依存が強かった。また、NB群では、よく選択される植生内では移動速度が遅くなる傾向がみられた。これらのことから、現存植生の違いが群れの環境利用に与える影響について考察する。