抄録
オランウータンは大型類人猿の中で唯一、完全な樹上性である。しかし先行研究から、スマトラ島に比べて、ボルネオ島では低い場所を利用する傾向がある、と指摘されている。そこで本研究では、我々が2004年から調査を行っている、ボルネオ島の原生林で、オランウータンがどのように空間を利用しているのかを報告する。調査地は、ボルネオ島マレーシア領サバ州のダナムバレー森林保護地域である。一日1個体を観察対象とし、朝ネストから出て、夕方ネストを作るまでの終日追跡を行い、行動を直接観察による瞬間サンプリング法で記録した。またオランウータンが利用している場所の高さを目測し、5分間隔の瞬間サンプリングで記録した。2007年2月までに、計18個体を対象として得られた1074時間の観察時間を分析し、「移動」、「休息」、「採食」時の高さを分析した。移動時の高さが最も低く、平均13.9mであったが、休息時と採食時はほぼ同じ19.3mと19.6mであった。特にオトナ雄の移動時の高さが最も低く、10.8mであり、高さ10m以下を移動する頻度は45%であった。一方で、母親から独立しているコドモは、高所を移動する傾向があり、移動時の平均の高さは19.4mであり、高さ10m以下を移動する頻度は21%であった。また先行研究と比較すると、スマトラでは移動時の平均の高さは18.5m、高さ10m以下を移動する頻度は4%であった。コドモとオトナ雄で移動時の高さに大きな違いがあったことから、体の大きなオトナ雄は、落下に伴う危険性を最小限にするために、低い場所を移動していると考えられる。一方で、ボルネオ島ではスマトラ島に比べて、低い場所を移動しているのは、ボルネオ島にはトラなどの大型の捕食者がいないことが要因として考えられる。発表では、ボルネオのオトナ雄が、地上性にならない理由について考察する。