抄録
ヒトを含む霊長類の認知機能の進化過程を解明しようとする場合、現生の多様な種での種間比較が必要となる。ヒト以外の動物を対象とした心理学的研究では、学習訓練をもとにした実験が数多く行われてきたが、これらは訓練に時間が長くかかってしまう。また、訓練そのものが彼らの「自然」な認知をゆがめてしまうという主張もある。これらの問題点を解消しうるものとして近年注目を集めているのが注視時間を指標とした方法である。その一つに馴化‐脱馴化法がある。本研究では、この方法が新世界ザルにおいても有効であるかを検証した。馴化‐脱馴化法はヒト乳幼児を対象とした研究で多用されている。一般的な手順として、まず参加個体に対しある刺激を一定時間呈示する。 同じ刺激を呈示し続けると、その刺激に対する注視時間が減少する(馴化)。そこで、これまでとは異なる刺激を呈示する。もし、参加個体もこれらの刺激の差異を弁別していれば、注視時間が増加する(脱馴化)。本研究では、京大霊長研で飼育されているコモンマーモセット(Callithrix jacchus)とヨザル(Aotus trivirgatus)を対象とした。動画をコンピューター画面にて再生し、それを刺激とした。刺激にはサルや節足動物の映像など、新世界ザルにもまったく異なるものとして見えるであろうものを任意に集めた。10秒の動画呈示を1試行とし、5試行続けて同じ刺激を呈示した(馴化試行)。続いて2試行連続して、馴化試行とは異なる動画を呈示した(テスト試行)。実験の結果、両種とも、馴化試行を経るにつれて注視時間が有意に減少した。また、テスト試行では注視時間の増加が見られた。以上の結果から、コモンマーモセットおよびヨザルにおいても馴化‐馴化法が有効であることが示された。この方法を利用することによって、今後、新世界ザルの知覚・認知の多様な側面についての比較認知研究が進展することが期待される。