抄録
霊長類は個体間の敵対的交渉の方向性から優劣関係が緩やかな種と厳格な種に分けられる.優劣関係が緩やかな種では,オス同士が親和的関係に基づいて連合を形成することや,劣位オス同士の連合形成によって順位変動が起きることが知られている.しかし,ニホンザルのような厳格な優劣関係を持つ種では,オス間の親和的関係が連合形成や順位変動へ与える影響は明らかにされていない.宮城県金華山島に生息する野生ニホンザルを対象として,2009年の5~6月に353時間,10~12月に356時間の7頭のオトナオスの観察を行った.オス間で観察されるグルーミング,敵対的行動の回数と相手を記録した.敵対的行動時の連合形成の有無と連合形成個体,攻撃相手も記録した.本研究では2頭が連合形成を形成して1頭に攻撃する事例に関してのみ分析を行った.709時間の観察中205回の敵対的交渉が観察され,オス間に直線的な優劣関係が認められた.ペア毎のグルーミング頻度は非交尾季と交尾季で有意な正の相関を示した.連合形成は非交尾季には1度も起きず,交尾季には18回観察された.優位な2個体が最劣位の個体を攻撃するall-down型と優位な個体と劣位な個体が中間の順位の個体を攻撃するbridging型の連合がそれぞれ12回,6回観察された.劣位な2個体が最優位の個体を攻撃するall-up型の連合は見られなかった.グルーミングの頻度と連合形成に有意な相関は見られず,高順位のオスほど連合形成に多く関与していた.これらの結果から,ニホンザルのオス間では親和的関係が長期間維持されるものの,親和的関係に基づいた連合形成は優劣関係によって抑制されていることが示唆される.また優位オス同士の連合形成は,劣位オスとの優劣関係の維持に寄与し,順位変動の少ない安定したオス間の社会関係が形成されていると考えられる.