霊長類研究 Supplement
第35回日本霊長類学会大会
セッションID: P37
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ポスター発表
チンパンジーの乳児選好における顔の形態と色の役割
*川口 ゆり中村 航洋狩野 文浩友永 雅己
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抄録

乳児はおとなとは異なる身体的特徴を有している。例えば,頭に対して相対的に大きな目,小さな口や鼻など,多くの種に共通してみられる乳児特有の顔特徴は「幼児図式」として知られている。霊長類のなかには,チンパンジーのように,乳児がおとなとは著しく異なる肌色や毛を持つ種も存在し,こうした特徴は「幼児色」として知られている。幼児図式や幼児色はともに同種個体からの注意を喚起し,養育行動を引き出す機能があると考えられている。チンパンジーを対象とした我々の先行研究では,おとな個体は同種のおとなより乳児をより多く注視する傾向があり,その際,幼児色が重要な手がかりとして利用されている可能性が示唆された。しかしながら,先行研究では,乳児顔の形態特徴と色特徴を同時にコントロールしてその効果を比較することはできなかった。そこで本研究では,チンパンジーのおとなと乳児の顔の間で異なる形態と色の特徴を独立に操作し,乳児顔への選好注視における形態と色の相対重要度について検討することを目的とした。実験では,チンパンジーの乳児8個体,おとな8個体の顔写真からそれぞれの平均顔を作成し,それら2つの平均顔の間で形態と色が乳児から大人までそれぞれ0%,50%,100%の割合で異なるモーフィング顔刺激を作成した。刺激をモニターの左右に3秒間ずつ対提示し,それぞれの刺激に対するチンパンジーの注視時間を計測した。その結果,乳児特有の形態特徴に選好を示すヒトと異なり,チンパンジーでは形態特徴よりも色特徴が同種の注意を捕捉することが明らかとなった。本研究から乳児らしさの知覚に用いられる顔特徴は種によって異なる可能性が示唆された。

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© 2019 日本霊長類学会
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