2021 年 11 巻 2 号 p. 111-123
希少がんには多種多様な悪性腫瘍が含まれ, 個々の特徴に着目した新技術開発が望まれるものの, 患者数の少なさから, その治療薬はしばしば高薬価となっている. 海外では, 適正な薬価や, 償還の可否の判断に費用対効果を含めた医療技術評価 (Health Technology Assessment: HTA) が活用され, わが国でも, 費用対効果評価制度が施行され, 薬価調整に用いられている. 本研究は, 希少がん治療薬の価値を評価するうえでのHTAの活用可能性と意義について, 海外での評価事例から示唆を得ることを目的として実施した. 日本で2009〜2019年に承認された42の希少がん治療薬は, 英国, カナダ, オーストラリアでは2.9〜12.5%が, 44のそのほかのオーファンドラッグのうち0〜22.2%が非推奨となっており, 非推奨の主たる理由は 「臨床的有効性に関する不確実性」 であった. 非推奨となった薬剤には, 原価計算方式で薬価算定された医薬品, すなわち, 比較できる類似薬がないものが多く, 臨床試験には実薬対照が設定されていない, かつ試験当たりの被験者数が少ない傾向が認められた. 臨床的有用性の不確実性を減らすためには, 国際共同試験, 産学協働コンソーシアム, ウェブリクルートなどを活用してより多くのデータ集積が試みられるべきである. 一方, 標準治療が存在しない, あるいは有効性が十分でなく, 倫理性から対照群が置けない限界も存在する. そのため, リアルワールドデータを活用して, 開発段階では対照群データの取得を行い, 市販後にはより多くの症例データを蓄積することなどが試みられるべきである.