レギュラトリーサイエンス学会誌
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11 巻, 2 号
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巻頭言
原著
  • 松下 俊介, 橘 敬祐, 日下部 哲也, 堤 康央, 近藤 昌夫
    2021 年11 巻2 号 p. 93-110
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/31
    ジャーナル フリー

    対象疾患が重篤であり有効な治療選択肢がない場合には, 治療法の患者アクセスの遅れは甚大な患者リスクにつながることになる. このような状況をふまえ, 再生医療等製品や医薬品等について, 安全性が確認され臨床効果を推定できれば市販後に有効性の検証などを課す条件付きの承認制度が構築されている. これらの条件付きの承認制度では, 市販後に一定の有効性評価等を課すことで患者アクセスの迅速化を図っているが, 市販前と市販後のレギュレーションにかかわる情報の整理は十分に実施されていない. そこで本研究では, 条件付きで承認されている再生医療等製品3品目と通常承認されている再生医療等製品6品目, 条件付きで承認されている医薬品5品目と通常承認されている先駆け審査指定医薬品8品目について審査報告書などを調査し, 条件付きの承認制度に特有の有効性評価などについて解析を試みた. 条件付きの承認品目では, 市販前の臨床試験のエビデンスレベルは低い傾向にあったものの, 市販後の有効性評価および施設基準などは品目の特性に応じてきめ細かく設定されており, 通常承認品目に比して厳格化されていた. なお, これらの条件を変更するには条件付きの承認後に有効性などの検証的試験などを実施したうえで審査を受けることが必要である. 以上の結果より, 条件付きの承認制度は有効性等の検証的評価を市販後に一部移すとともに使用できる医師や施設を限定することなどで安全性を確保したうえで, 治療法のない患者に治療選択肢を提供するための合理的なレギュレーションであると考えられる.

報告
  • 小串 健太郎, 池田 俊也
    2021 年11 巻2 号 p. 111-123
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/31
    ジャーナル フリー

    希少がんには多種多様な悪性腫瘍が含まれ, 個々の特徴に着目した新技術開発が望まれるものの, 患者数の少なさから, その治療薬はしばしば高薬価となっている. 海外では, 適正な薬価や, 償還の可否の判断に費用対効果を含めた医療技術評価 (Health Technology Assessment: HTA) が活用され, わが国でも, 費用対効果評価制度が施行され, 薬価調整に用いられている. 本研究は, 希少がん治療薬の価値を評価するうえでのHTAの活用可能性と意義について, 海外での評価事例から示唆を得ることを目的として実施した. 日本で2009〜2019年に承認された42の希少がん治療薬は, 英国, カナダ, オーストラリアでは2.9〜12.5%が, 44のそのほかのオーファンドラッグのうち0〜22.2%が非推奨となっており, 非推奨の主たる理由は 「臨床的有効性に関する不確実性」 であった. 非推奨となった薬剤には, 原価計算方式で薬価算定された医薬品, すなわち, 比較できる類似薬がないものが多く, 臨床試験には実薬対照が設定されていない, かつ試験当たりの被験者数が少ない傾向が認められた. 臨床的有用性の不確実性を減らすためには, 国際共同試験, 産学協働コンソーシアム, ウェブリクルートなどを活用してより多くのデータ集積が試みられるべきである. 一方, 標準治療が存在しない, あるいは有効性が十分でなく, 倫理性から対照群が置けない限界も存在する. そのため, リアルワールドデータを活用して, 開発段階では対照群データの取得を行い, 市販後にはより多くの症例データを蓄積することなどが試みられるべきである.

特集(レギュラトリーサイエンス(RS)の薬学教育の動きと今後の新展開)
  • 西村 多美子
    2021 年11 巻2 号 p. 125-129
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/31
    ジャーナル フリー

    1987年に内山充先生が提唱したレギュラトリーサイエンス (RS) は, 薬学部では, 多種の教科で多数の教員が教育にかかわっている. しかし, RSが薬学教育モデルコアカリキュラムに組み込まれて以来, その重要性が認識されていくにつれて, 種々の解釈がなされるという問題が生じた. 最近では, 実務経験のある教員による授業科目は, 授業計画 (シラバス) で明らかにすることとされている. 厚生労働省や医薬品医療機器総合機構の職員が教育現場に実務家教員として転出し, 医薬品評価学, レギュラトリーサイエンス (RS) の教授として自らの研究室を主催する例も増加している. 得られるデータから結果を予測して, 判断していくRSの考え方を, 薬学生は身につけることになる. アクティブラーニングを応用したRS関連の問題を解決する能力の醸成を図るさまざまな教育方法が実施されている. 大学で身につけた調整能力や判断力は, 医薬品開発, 製造や供給業務にかかわる薬学部卒業生ばかりではなく, 薬剤師にとっても重要な能力といえる. 例えば, 大学において新薬承認審査を疑似体験することで, 薬学部卒業生は規制当局から得る情報の裏付けを知り, RSに基づく患者の立場に立った解決策を見いだしていくことが期待される. RS教育において, 規制当局の判断の裏付けは, データの蓄積状況により変化するものであり, 規制当局の対応とその裏付けを明確に学生に示していくことも重要であると考える.

  • 永井 尚美
    2021 年11 巻2 号 p. 131-138
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/31
    ジャーナル フリー

    武蔵野大学では, 1年前期の必修科目 「薬学概論・レギュラトリーサイエンス概論」 をはじめとして, 幅広い科目を通じてレギュラトリーサイエンス教育を行っている. 近年, 医療専門職には, 科学的・論理的思考に基づき主体的に行動して課題を解決する能力がより一層求められるようになっている. そのような専門的人材の育成に資するアプローチとして, 薬学部の教育においてもアクティブ・ラーニング方式が導入されるようになってきた. 本稿では, レギュラトリーサイエンス教育におけるアクティブ・ラーニングの一例として, 新医薬品の承認情報を活用して4年前後期に実施しているグループ・ワークを紹介する.

  • 益山 光一
    2021 年11 巻2 号 p. 139-144
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/31
    ジャーナル フリー

    2013年の薬学教育モデル・コアカリキュラムにおいて, 「レギュラトリーサイエンスの必要性と意義について説明できる. 」 との内容が新設された. これにより, わが国における6年制薬学教育でのレギュラトリーサイエンス (RS) 教育が本格的に始まったといえる. また, 2016年には, RS教育の重要性に鑑み, 一般社団法人薬学教育協議会において, RS分野教科担当者教員会議が設置され, 各薬学部での取り組みの情報交換などが進められている. そのようななか, 東京薬科大学でのRS教育の特徴として, RSの基盤となる個々の専門教育に加え, RSに関係のある具体的な事案を考えるゼミナールや時事の社会的な話題に関して特徴的な教育を実践している. その実践はまだ試行錯誤中であり, 今後とも, 新たな医薬品医療機器等法の制度のなかで, RSの概念を理解し, 製薬企業や医療現場で新薬の実用化に貢献できる薬剤師教育のさらなる充実を図ることとしている.

  • 上林 裕始
    2021 年11 巻2 号 p. 145-152
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/31
    ジャーナル フリー

    製薬企業において薬剤師・薬学部出身者が担う法的役割として, 総括製造販売責任者というものがある. 総括製造販売責任者の設置は, 医薬品, 医療機器等の品質, 有効性及び安全性の確保等に関する法律に基づき, 医薬品等を製造販売する業者がその許可 (製造販売業) を取得するための許可要件の1つとなっている. 医薬品の総括製造販売責任者は, 市場における製品の品質管理および製造販売後安全管理の総括的な責任を有する役割であり, その資格要件は, 医薬品の場合一部のものを除いて現時点で薬剤師であることに加え, 製造販売業に係る薬事業務, 開発業務, 品質管理業務または安全確保業務に3年以上の従事経験 (第一種医薬品製造販売業) を有すること, さらに薬事法規, 製品の特性, 原材料の調達から製品の市場への出荷に至る業務プロセス, 製造方法および製造管理, 品質管理業務並びに安全確保業務に関する総合的な理解力および適正な判断力を有することが求められている. 製薬企業の総括製造販売責任者として業務に従事する上で日々考えていることは, 製品の品質・有効性および安全性への影響, レギュラトリーコンプライアンス, 連携・コミュニケーション, タイムリーな判断と措置の実施など多岐にわたっている. 本稿では, 具体的な事例を交えながら, レギュラトリーサイエンスを含め総括製造販売責任者に求められる事項について, 自身の考えを交えて共有したい.

  • 中井 清人
    2021 年11 巻2 号 p. 153-159
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/31
    ジャーナル フリー
シリーズ(医薬品・医療機器評価をめぐる最近の話題)
  • 吉田 寛幸, 阿部 康弘, 伊豆津 健一
    2021 年11 巻2 号 p. 161-169
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/31
    ジャーナル フリー

    ICH-M9ガイドライン: BCSに基づくバイオウェーバーが本邦で実装された. この指針は, 原薬の物性 (溶解性, 膜透過性) と製剤の特性 (添加剤, in vitro溶出性) を評価し, 必要な要件を満たすことで生物学的同等性の評価におけるヒト試験を免除することを可能とするものであり, 処方変更における活用とともに今後の後発医薬品の開発への適用が期待されている. M9ガイドラインにより, BCSクラス分類や製剤特性の主な要件に関する国際間の差異は調和されたものの, 溶解度測定法の標準化や溶出類似性判定法の最適化, また添加剤の差の許容幅など, 継続的な議論が必要な部分が残されている. 本稿は, M9ガイドラインの概要と国内外の動向, および著者らが考える課題について概説する.

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