抄録
糖尿病での微小循環障害に基づく臓器障害についてはよく知られているが,代謝異常によってもたらされる臓器障害については不明な点も多い.そこで,心機能および大動脈壁弾性の変化について,非インスリン依存性糖尿病の自然発症モデルとしてのOtsuka Long-Evans Tokushima Fatty(OLETF)ラットを対象として,糖尿病発症前からの経過を追跡することから,これらの障害過程を観察してそのメカニズムについて検討した.
パルスドプラ法によって記録した経僧帽弁流入血流パターンでの拡張早期流入血流の減速時間は,糖尿病性ラットでは病期の進行に伴って週齢と有意な正相関(r=0.56,p<0.0001)を示し,これに対して正常対照(LETO)ラットでは経過中変化を認めなかった.また,脱血しつつ血圧を低下させながら胸部大動脈の血管内エコー像を動脈圧と同時記録し,これらから求めたdistensibility index(1/mmHg)は,13~20週齢において,OLETFラットですでに低値を示した(OLETFO.71±0.11,LETO0.97±0.25,p<0.05).
心筋細胞でのTGF-β 受容体の発現や,血管平滑筋細胞の増殖がみられたことから,糖尿病発症前における高血糖,高インスリン血症によってもたらされる代謝障害が,左室拡張障害や大動脈壁伸展性の障害を引き起こすものと考えられた.