抄録
北海道のオホーツク海に面した小学校において,新築校舎使用開始後,全児童17人中10人と教職員9人中3人が様々な体調不良を訴えたため,約1ヵ月後に近隣の地区センターへ避難して授業を行うことになった。竣工後と症状発症後の民間検査機関による検査では,学校環境衛生基準に定められた8物質及び指針値の設定された13物質はいずれも基準値・指針値を下回っていた。竣工後約6ヵ月を経過した時点で室内空気中化学物質を精査したところ,指針値の設定されていない1-メチル-2-ピロリドンと2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート(テキサノール)が高濃度(前者の最高濃度:1000μg/m3,後者の最高濃度:290μg/m3翌月の測定では510μg/m3まで上昇)で検出された。これら2種の化学物質は新校舎内壁面の塗装に使用された水性塗料成分であることが判明した。これらの低減化を図るために換気の徹底とベークアウトを行った。また,児童・教職員が体調不良を発生した時点の1-メチル-2-ピロリドンとテキサノール濃度を推定するために,学校の環境を模した温湿度条件で小形チャンバー法による放散量の測定を行った。その結果,竣工後から校舎使用開始までの1-メチル-2-ピロリドンやテキサノールなどの減少量は少なく,校舎使用開始に伴う暖房の使用によりこれらの放散量が急激に増加し,校舎内の室内空気を汚染したことが推測された。