2004 年 44 巻 2 号 p. 11-26
本研究では,Lotmanの「文化システムのテクストの機能的二重性」及びWertsch の「特権化」の概念を参照することで社会文化的アプローチの立場から理科授業の言語コミュニケーションの特徴をいかに捉えることができるかを議論した。その結果Lotman の概念については,「単声機能」と「対話機能」という声の編成の仕方の観点から,理科授業の言語コミュニケーションの特徴を把握できることがわかった。同時に,「意味の適切な伝達」や「思考の装置」といった子どもたちの学習に対する他者の役割をそうした声の編成のあり方に即して吟味できることも明らかになった。Wertsch の概念については,子どもたちが学習している内容の変遷を会話のトピックの変遷という形で,言語コミュニケーションの中に見出せることがわかった。また,小学校の単元「水溶液の性質」を事例として,社会文化的アプローチからの言語コミュニケーション分析を行った。その結果,子どもたちの学習は特定の内容に焦点を当てて理解を深めるものであったこと,教師や他の子どもたちは理解の深化を相互に促進する役割を担っていたことがわかった。併せて,授業の言語コミュニケーションのあり方について,反省的に再検討すべき点を示唆することができた。