理科教育学研究
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44 巻, 2 号
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総説
  • 藤岡 達也
    2004 年 44 巻 2 号 p. 1-10
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    自然科学と考古学との関連性は深く, これらの協同研究は現在までも学際的な多くの成果を挙げてきた。本稿ではそれにもかかわらず,従来歴史教育の側面からの取組が多かった考古学に関する素材や内容を理科教育で取扱うことの意義と可能性について論じた。特に,古環境の復原や堆積物の供給源としての後背地の考察など,地域を素材とした場合に考古学と共通した観点をもつ地学教育との関わりに着目した。具体的には,考古学に関連するこれまでの地質学・地形学(自然地理学)・岩石学などの学問をベースにした地学分野の教育研究・教育実践を検討し,地学教育の魅力について,従来あまり指摘されなかった点から論じた。さらに,「総合的な学習の時間」や「環境学習」の展開を考えた場合,考古学に関連する素材は,文科系・理科系を融合した総合・学際的な教育内容の可能性をもつこと,国内の実践例から地学の内容が多様な教育活動の展開にも関わることが期待できることについても言及した。

原著論文
  • 稲垣 成哲, 山口 悦司
    2004 年 44 巻 2 号 p. 11-26
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,Lotmanの「文化システムのテクストの機能的二重性」及びWertsch の「特権化」の概念を参照することで社会文化的アプローチの立場から理科授業の言語コミュニケーションの特徴をいかに捉えることができるかを議論した。その結果Lotman の概念については,「単声機能」と「対話機能」という声の編成の仕方の観点から,理科授業の言語コミュニケーションの特徴を把握できることがわかった。同時に,「意味の適切な伝達」や「思考の装置」といった子どもたちの学習に対する他者の役割をそうした声の編成のあり方に即して吟味できることも明らかになった。Wertsch の概念については,子どもたちが学習している内容の変遷を会話のトピックの変遷という形で,言語コミュニケーションの中に見出せることがわかった。また,小学校の単元「水溶液の性質」を事例として,社会文化的アプローチからの言語コミュニケーション分析を行った。その結果,子どもたちの学習は特定の内容に焦点を当てて理解を深めるものであったこと,教師や他の子どもたちは理解の深化を相互に促進する役割を担っていたことがわかった。併せて,授業の言語コミュニケーションのあり方について,反省的に再検討すべき点を示唆することができた。

  • 長谷川 俊一
    2004 年 44 巻 2 号 p. 27-34
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    高校化学では,アレーニウスとブレンステッドの2つの定義による[酸」と「塩基」を学習する。2つの定義には類似点があるため,理解するのに混乱をきたす場合がある。そのうち,「水のイオン積」や「pH」への応用につながるアレーニウスの定義をしっかりと理解させる必要がある。そこで, 「酸」と「塩基」, 「中和反応」の理解を把握するために高校生と対話を行った。その結果,以下のことが明らかになった。① 両定義の「酸」と「塩基」, また「酸」の定義におけるH+の相違について,理解していない場合があること。② アレーニウスの「酸」の定義において. H3OとH+の関係について曖昧に理解している場合があること。③ 「塩」の多様性についての理解が不足であること。④ 「酸性酸化物」と「塩基性酸化物」について,教科書によっては学習者が疑問をもつ記載になっていること。アレーニウスの酸の定義ではH3O+を扱い,ブレンステッドの定義でのH+と明確に区別させるべきで, これが学習者の誤解をなくす教授法である。「塩」はブレンステッドの定義に基づくため,その多様性は理解されにくい。教師は教える主体的存在であり,発問の厳選,学習者の誤解の予防,教科書の記載の加工・修正などを行い,発展的な授業を行っていく必要がある。

  • 松野 佐知子, 磯崎 哲夫
    2004 年 44 巻 2 号 p. 35-46
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,わが国の理科教育史におけるジェンダー問題を解明することを目的とした。そこで,一連の研究の前編では,歴史的アプローチを用い,学制発布から第二次世界大戦前までの高等女学校における理科教育の特色を明らかにするため,分析項目を設定し中学校と比較検討した。その結果,次のことが明らかとなった。①第二次世界大戦前における女子教育思想の根底には,常に良妻賢母論が存在し,②高等女学校における理科教育では,中学校との教授目的や教授時間などの法令上の違いを含め,教科書の学習内容や実験室等の設備面に関する違いも存在していた。③高等女学校の理科教育の学習内容は, 日常生活との関わりや家事科との関連が重視されていた。

  • 宮田 斉
    2004 年 44 巻 2 号 p. 47-58
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    これまで,協同作業における理解活動の機能的分化には,学習者がより効率的な認知的活動を展開できる可能性が示唆されてきた。しかし,科学的なコミュニケーション活動の活性化をねらいとし,理解活動の機能的分化を手段とした場合の教授法についてはさほど実証的には検討されていない。本研究の目的は,小学校6年「電流と電磁石」の単元の授業(全11時限)を事例とし,児童の科学的なコミュニケーション活動を活性化する手段として“循環型の問答ー批評学習"を利用する授業を設計し,児童・教師の会話の分析と質問紙調査から, この教授法の有用性を検討することにある。その結果,本事例の範囲内で,循環型の問答一批評学習利用には,児童のメタコミュニケーションを促し,科学的なコミュニケーション能力を高めあう教授法として有用性があることが見い出された。

  • 森本 信也, 小野瀬 倫也
    2004 年 44 巻 2 号 p. 59-70
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究においては,理科授業構成における学習と評価の関連性について,構成主義的な視点から分析を加えた。こうした関連性を明瞭に示すことは,構成主義的な視点に立つ理科授業の教授ストラティジーの明晰化につながるものと考える。つまり,教師は子どものどのような反応に対して評価を下し,これを教授行為として生かすかを判断する際の視点を明確化することができるのである。分析においてはクラクストンの諸論を援用し,6つの理科の教授ストラティジーを提起すると共に,その関連性を示すためにこれらの要素を「理科の教授スキーム」としてまとめた。そして, この有用性を授業実践を通して検証した。

  • 山崎 敬人
    2004 年 44 巻 2 号 p. 71-81
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,教育実習の開始時と終了時における教育実習生の理科授業観の様態とその変化を明らかにするとともに,実習中の経験やエピソードとそうした変化との関係について考察することであった。実習生が回答した理科授業に関する比喩と,終了時の比喩を考える契機となった実習中の経験やエピソードの回答を分析した結果,主に以下の点が明らかになった。・開始時の回答では,理科授業のねらいや役割に焦点を当てた比喩が大部分を占めていた。しかし,終了時ではそうした回答が減少し,理科授業の構想や実践に関する比喩が増加した。・教育実習期間において比喩のカテゴリーが変化した実習生では多くの者が終了時に「理科授業の構想」と「理科授業の実践」に関するカテゴリーの比喩を回答していた。これらの比喩には,理科授業の構想における教師の教材理解や教材解釈の重要性,教師と生徒の協同による理科授業,多様な授業の実践や展開の可能性といった視点が認められた。・教育実習中の主な経験・エピソードの回答は, 「授業方法」「生徒の実態」「教師の教材理解」の3つのカテゴリーに分類されるものであった。・開始時と終了時ともに「理科授業のねらい・役割」のカテゴリーの比喩を回答していた者では,「生徒の実態」や「授業方法」に関する教育実習中の経験・エピソードが,彼らが実習の開始時に保持していた理科授業に関する考えを再確認することに寄与していたと考えられた。一方,「教師と生徒の関係」と「授業の多様性」に関する経験・エピソードを回答していた実習生についてみると,そうした経験やエピソードが彼らの理科授業観の問い直しや変容につながる重要な契機の一つとなっていたのではないかと考えられた。

  • 湯本 文洋, 西川 純
    2004 年 44 巻 2 号 p. 83-94
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,小学校4年~6年を対象として,理科実験における児童相互の会話・行動分析を行った。その結果,女子児童が実験等に積極的に参加しにくい実態が明らかになった。さらに,男子が女子の行動を阻害しているのみならず,女子自身が実験を放棄している実態が明らかになった。また,男子が女子の行動を阻害する場合また,女子が実験を放棄する場合に,それに対して異議を唱えない事例が少なくないことも明らかになった。このことは男子のみ,女子のみ, また,行動を阻害する側,放棄する側のみの問題ではなく, クラス全体の問題であることが明らかになった。小学校6年生を対象とした授業を行った。授業では,ビデオ視聴授業劇という15 分程度の指導を1度入れた。その結果,男子が女子の行動を阻害する場合, また,女子が実験を放棄する行動が減少することが明らかになった。さらに,行動変化は2ヶ月後にも継続していることが明らかになった。これらのことは,児童自らの中に男女間の相互関係を改善する力があることを示すものである。

資料
  • 安藤 秀俊
    2004 年 44 巻 2 号 p. 95-100
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    中学校の理科教師を対象に,教科書に記載されている観察・実験を今までどの程度の割合で実施してきたのかアンケート調査を行ない,実施程度の男女差,年代差,大学での専攻の違いについて検討した。また,観察・実験の実施状況の理由や,観察・実験に対する教師の意識や考え方についても調査を行った。その結果観察・実験を80%以上実施している教師が29%,50~80%程度実施している教師が58%で, 50%以上実施している教師が9割以上を占め, 出身大学での専攻差についてのみ有意差が認められた。観察や実験に対する教師の意識や考え方についてのアンケートでは,教師は観察・実験を行うことで多くの生徒が学習内容に興味・関心を持つことをまた理料にとって観察・実験は絶対に必要であり,避けて通れないということを強く認識しているが,準備をする時間が少ないことや実験器具の不足が大きな障害となっている現状が明らかになった。

  • 根本 泰雄, 柴山 元彦
    2004 年 44 巻 2 号 p. 101-107
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    大学や研究所の研究者等が小学校「総合的な学習」・「算数」・「理科」・「生活科」の教材研究用の情報を教諭に提供する際教諭層のうち理数的な背景を持つ教諭がどの程度の割合で所属しているのか知っておくことは重要である. しかしながら,文部科学省や各教育委員会には小学校教諭の個々人がどのような専門的背景を持っているかを示す統計資料は存在していない.そこで,本研究では大阪市立小学校全303 校を対象として理数系を背景に持つ小学校教諭がどの程度の割合で所属しているかを郵送によるアンケート調査法により求めた.その結果,数学(算数)および理科を背景として持つ教諭は全教諭のうちそれぞれ約2.3% ,約5.9%であり,特に理科を科目として考えると,物理,化学,生物,地学を背景として持つ教論はそれぞれ約1.0% ,約0.9% ,約1.0%,約0.6 %であった.各科目ともに少ないが,特に地学の低さが特徴的であることが判明した.小学校における主要8教科を考えると10 数%の教諭がそれぞれ数学,理科を背景として持っていてもおかしくないが,理数系を背景に持つ教諭は合計でも10 %強でしかなかった.以上から,「小学校教諭」の採用においても志願者の素養を考慮することが望まれ,志願者の学問的背景による教科毎のバランスを考える方法を検討することや,教諭の配置にあたって各教諭の専門性も考慮に入れることでより望ましい配置となり得る可能性が示された. また,研究者等が情報を発信する際には,理数的な背景が必ずしも得意でない教論が約9割いる現状を認識して行う必要性のあることが示された.

  • 藤島 弘純
    2004 年 44 巻 2 号 p. 109-122
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    小学校の校庭に生える野生植物(草本)の種を,文献(旭川市,新潟市,東京都,兵庫県の4ブロック)調査および現地踏査(鳥取市,松山市の2ブロック)の2方法で調査した。その結果,①-④のことが明らかになった。① 1校当たりに生える野草の種数は190 種以下であり,それらの多くは生態学的には人里植物(荒地植物),また雑草学的には雑草として分類される属性を持っていた。②同ーブロック内の学校で高頻度(80 %以上の学校で出現)に見られた種が,他のブロック内でも高頻度に見られるとは限らなかった。③同一ブロック内の学校で高頻度に見られる種は,出現種数の11-24 %であり,学校間での植生の類似性は低かった。④校庭の植生は,学校周辺地域の植生とも類似性は高くなかった。生物の名を知ることは, 自然を学ぶことの基本だとの考えのもとに,教師の指導技術の向上と児童・生徒の学習環境の整備の2 側面から,校庭の植物の「植物図鑑づくり」を提案した。

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