抄録
本研究では,福島県の葛尾村を例に東京電力福島第一原子力発電所の事故により避難生活を余儀な
くされていた葛尾村高齢者の生活実態と帰還行動を分析し,政策的な含意を提言する.主な結果は以
下のとおりである.第1に,現在までに約3割の村民が村に帰っているが,そのほとんどは高齢者で
ある.第2に,大震災前後のデータを比較すれば,現在の65歳以上の高齢者は2013年の地震発生時
より9.1% 多く,現在の公営住宅の比重は地震発生時より7.2% 高く,現在の失業率は地震発生時の
2倍以上であることがわかった.第3に,現時点(令和5年)では33.7% の村民が村に帰っており,
5.8% が村に帰りたいと考えており,20.2% はまだ決めておらず,36.1% が村に帰らないことを明
らかにした.第4に,多くの高齢者が村での生活がもっとも快適であるために村に帰った.地方公共
団体は医療と介護サービスにおいて必要な支援を提供することを求められる.医療や介護施設を増や
すことは,村への復帰率を高めるのに役立つ.最後に,放射能,飲料水の安全,医療サービス,交通
の利便性などの要素を心配して,多くの村人が村に帰ることを決め難い結果となった.