ジェロントロジー研究報告
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ジェロントロジー研究報告 No.16
選択された号の論文の18件中1~18を表示しています
  • 2024 年2024 巻16 号 p. 1-194
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2026/02/17
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
  • ── お寺での介護者カフェの効果──
    宇良 千秋, 岡村 毅, 小川 有閑
    2024 年2024 巻16 号 p. 5-11
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2026/02/17
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    本研究では,寺院による介護者カフェに参加している地域包括支援センターや社会福祉協議会等の 公的支援機関のスタッフに半構造化面接を行い,地域包括ケアシステムの視点から語られた寺院によ る介護者カフェの潜在的可能性や効果について検討した.介護者カフェを開催している寺院13件か ら紹介された地域包括ケアに関わる公的機関(地域包括支援センターや社会福祉協議会,NPO 等) のスタッフ14名に半構造化面接を実施した.面接では,介護者カフェに参加したきっかけ,介護者 カフェでの役割,介護者カフェで得られる情報,介護者カフェの効果,寺院以外で開催している介護 者カフェや家族会との違いについて尋ねた.逐語を熟読し,寺院や僧侶,介護者カフェに関する評価 について語られた言説を抜き出し,階層的にコード化し主題分析を行った結果,21の小カテゴリー と4つの大カテゴリー(社会資源としての寺院,寺院・僧侶の強みを活かした寺院,地域に開かれた 親しみのある寺院,公平な寺院)に集約された.結果から,寺院が地域包括ケアシステムに接合でき る可能性が示唆された.
  • ── 福島県葛尾村を例に──
    王 聰
    2024 年2024 巻16 号 p. 12-20
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2026/02/17
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    本研究では,福島県の葛尾村を例に東京電力福島第一原子力発電所の事故により避難生活を余儀な くされていた葛尾村高齢者の生活実態と帰還行動を分析し,政策的な含意を提言する.主な結果は以 下のとおりである.第1に,現在までに約3割の村民が村に帰っているが,そのほとんどは高齢者で ある.第2に,大震災前後のデータを比較すれば,現在の65歳以上の高齢者は2013年の地震発生時 より9.1% 多く,現在の公営住宅の比重は地震発生時より7.2% 高く,現在の失業率は地震発生時の 2倍以上であることがわかった.第3に,現時点(令和5年)では33.7% の村民が村に帰っており, 5.8% が村に帰りたいと考えており,20.2% はまだ決めておらず,36.1% が村に帰らないことを明 らかにした.第4に,多くの高齢者が村での生活がもっとも快適であるために村に帰った.地方公共 団体は医療と介護サービスにおいて必要な支援を提供することを求められる.医療や介護施設を増や すことは,村への復帰率を高めるのに役立つ.最後に,放射能,飲料水の安全,医療サービス,交通 の利便性などの要素を心配して,多くの村人が村に帰ることを決め難い結果となった.
  • ── 人生を通じて発達する「知恵」とは何か──
    春日 彩花
    2024 年2024 巻16 号 p. 21-33
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2026/02/17
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    本研究では,知恵に複数の形態があるという仮説に基づき,知恵と生活文脈の関連を検討した.30 -69歳の成人を対象として調査を行い,1,116名のデータを分析した.分析に使用した指標は,知恵 項目,性別,ジェンダー・パーソナリティ,職業経験であった.7因子構造の知恵項目の因子得点を 用いてクラスター分析を実施し,個人を分類した.その結果,【目標志向群】【全体高群】【対人特化 群】【全体低群】と解釈できるクラスターが抽出された.次に,これらの知恵の形態と,生活文脈要 因(性別,ジェンダー・パーソナリティ,および職業経験)との関連を分析した.その結果,知恵の 形態と性別の間に有意な関連は認められなかったが,ジェンダー・パーソナリティについては,知恵 の形態との間に有意な関連が認められた.特に,女性性の中核とされる肯定的共同性は【目標志向群】 よりも【対人特化群】で高く,男性性の中核である肯定的作動性については【対人特化群】よりも【目 標志向群】で高い値が示された.さらに,最長職の従事年数が1年以上の者を対象に,知恵の形態と, 最長職で必要とされる機能の関連を検討した.その結果,特に【目標志向群】と【対人特化群】の対 象者において,各形態の特性との関連が想定される機能が要求される仕事に従事していた(している) ことが分かった.本研究を通して,知恵の発達要因を検討するためには,知恵に複数の形態があると いうアプローチが有効であることが示唆されたといえよう.
  • ── 栄養管理の実際と管理栄養士との連携に焦点を当てて──
    辛島 順子, 水上 由紀, 原島 恵美子
    2024 年2024 巻16 号 p. 34-41
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2026/02/17
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    高齢化が進むわが国において,高齢者の低栄養を予防することは重要な課題である.本研究では, 地域包括支援センターにおける地域高齢者の栄養に関する課題等の把握・判断の方法や具体的な対応 方法,栄養改善に関する取り組み状況について調査を実施した. 本研究は,研究1「地域包括支援センターの専門職を対象としたインタビュー調査」と研究2「東 京都・神奈川県の地域包括支援センターを対象とした質問紙調査」の2つの調査で構成した. 研究1は,2023年1月に首都圏A 市にある地域包括支援センターに勤務する専門職6名を対象と して半構造化面接を実施した.地域包括支援センターの専門職が対応する高齢者には多くの栄養課題 があり,対応する専門職は,高齢者の栄養管理に関して困難を感じていた.それらを解決するために も,管理栄養士が地域の高齢者と関わることや専門職の相談先となることが必要であると考えられた. 研究2は,2023年7月~8月に東京都と神奈川県の地域包括支援センターを対象に地域高齢者の 栄養管理と多職種連携に関する質問紙調査を実施した.地域包括支援センターには地域高齢者の栄養 に関連する相談がよせられているが,食事調査を踏まえた栄養アセスメントや栄養管理の実施は低率 であった.地域包括支援センターはさまざまな専門職と連携するが,管理栄養士と定期的に連携して いる割合は低く,連携強化の必要性が示唆された.
  • 菊地 眞海, 平野 美千代
    2024 年2024 巻16 号 p. 42-49
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2026/02/17
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    目的:高齢者のつながりの充足度合いの認識,すなわち主観的な「つながり観」を測定することを可 能にする,「高齢者の地域を基盤とした人々とのつながり観」測定ツールモデルの開発を目的とした. 方法:古典的テスト理論に基づき設計した3つのフェーズで構成した.すでに完了したフェーズⅠ【概 念の明確化】の結果を基に,フェーズⅡ【測定ツール項目試案の作成】を行った.内容妥当性は,保 健師9名と研究者9名を対象に検証した.表面妥当性は,地域在住65歳以上の男女36名を対象に検 証した.さらにフェーズⅢ【測定ツールモデルの信頼性と妥当性の検証】を行った.対象は住民基本 台帳に基づき抽出された,北海道に居住する65歳以上の男女1,000名とした. 結果:フェーズⅡでは,内容妥当性の検証において,内容妥当性指標は良好な結果が示された.その 後,表面妥当性の検証において,項目間相関で除外基準に該当した9項目を除外し,項目試案30項 目が作成された.フェーズⅢでは,有効回答数358名を分析対象者とした.確認的因子分析の結果,3 因子22項目が抽出された.妥当性は併存的妥当性,信頼性は内的整合性と安定性を検証し,いずれ も良好な結果が示された. 結論:開発された測定ツールは,十分な信頼性と妥当性を有していた.本ツールで測定されるつなが り観は,地域在住高齢者のHealthy Aging の実現に資する地域づくりに活用できる可能性がある.
  • 久米 裕
    2024 年2024 巻16 号 p. 50-58
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2026/02/17
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    目的:本研究の目的は,地域高齢者における社会的フレイルの改善に関連する休息と活動パターン構 成要素を明らかにすることである. 方法:研究対象者は秋田県内の地域高齢者から地域包括支援センターが発行する広報誌を用いて公募 された.各対象者による社会的フレイルの重症度を評価するために,Yamada ら(2018)による社会 的フレイル・スクリーニング質問票4項目が使用され,認知症予防事業による3か月間の介入前後に 評価された.腕時計型アクチグラフ・デバイスによって7~14日間連続計測されたデータを用いて RAR 指標(inter-daily stability:IS,intradaily variability:IV,Relative Amplitude:RA)が算出 された. 結果:最終的な分析対象者数は64名であり,その内訳は介入前後の社会的フレイル状態の変化に応 じて社会的フレイル維持・改善群36名(平均年齢±標準偏差,74.8±5.6歳)と社会的フレイル悪 化群29名(77.3±6.1歳)であった.2項ロジスティック回帰分析の結果として,社会的フレイル維 持・改善群は介入後のIS 値(オッズ比:1.06,95% 信頼区間:1.018‐1.109,p<0.01)が高く,通 常歩行速度が有意に速かった(オッズ比:1.03,95% 信頼区間:1.003‐1.061,p<0.05). 結論:IS 値は高い値ほど外界の刺激(光暴露や身体活動,社会活動)に対する高い同調性をもつと解 釈できる概日リズム指標の1つと指摘されており,社会的フレイルが介入によって維持・改善する地 域高齢者は外界刺激に対する同調性が高い特徴を有すると考えられた.
  • 齋藤 崇志
    2024 年2024 巻16 号 p. 59-68
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2026/02/17
    研究報告書・技術報告書 フリー
    Functional Vision Screening Questionnaire(FVSQ)は,視覚リハビリテーション(視覚リハ)の ニーズをアセスメントするためにアメリカで開発された評価指標である.本研究の目的は,FVSQ の 和訳プロセスの記述(研究1),ならびに,和訳されたFVSQ の信頼性と妥当性の検証である. <研究1> 方法:FVSQ の和訳はConceptual Translation Method を参考に実施された.和訳されたFVSQ に ついて,20名の視覚障害者から表現の適切性等に関するフィードバックを得た. 結果:原版のFVSQ の表現に対していくつかの加筆修正を実施した.そして,15項目の質問項目(合 計得点:15-45点)からなるJapanese Version Functional Vision Screening Questionnaire 日本版 FVSQ(試用版)が作成された. <研究2> 方法:視覚障害者と視覚障害をもたない者(晴眼者)が対象者としてリクルートされた.調査項目は, 基本属性と機能的視覚スコア(Functional Vision Score ; FVS),日本版FVSQ(試用版)であった. 日本版FVSQ(試用版)の信頼性の検証として,合計得点の級内相関係数(Intra‐class Correlation Coefficients ; ICC)が算出された.日本版FVSQ(試用版)の収束妥当性の検証として,日本版FVSQ (試用版)とFVS の間の相関係数が算出された.また,既知群妥当性の検証として,視覚障害者群と 晴眼者群間で日本版FVSQ(試用版)の合計得点の差異を検証した. 結果:最終的な解析対象者は,視覚障害者38名,晴眼者44名であった.日本版FVSQ(試用版)の ICC は0.96(p<0.001)であった.日本版FVSQ(試用版)とFVS の間のSpearman 順位相関係数 はr=-0.66(p<0.01)であった.日本版FVSQ(試用版)の合計点の中央値は,視覚障害者群は 34点,晴眼者群は15点であり,視覚障害者群が有意に高い値(p<0.001)を示した. 結論:FVSQ を翻訳して開発された日本版FVSQ(試用版)は,信頼性と妥当性を有する評価指標で ある.
  • ── 社会参加に着目して──
    清水 佑輔
    2024 年2024 巻16 号 p. 69-80
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2026/02/17
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    日本を含む世界中で高齢化が急速に進んでおり,若者が抱く高齢者に対する態度は依然としてネガ ティブである.このような否定的態度の根底にある認知として,本研究では規範的ステレオタイプに 着目した.これは,継承(高齢者は財産を蓄えず次の世代に引き継ぐべきである),アイデンティティ (無駄な若作りをせずに高齢者らしく振る舞うべきである),および消費(必要以上に社会保障を受け るべきではない)という3つの下位概念から成る.本研究では4つの実験および調査を実施した. Study1では,自由記述式の調査によって高齢者に対する規範的ステレオタイプの現状を明らかにし た.Study2では,規範的ステレオタイプと高齢者へのネガティブな態度の関連について調査し,規 範的ステレオタイプが強い人ほど高齢者への態度がネガティブであり,高齢者が社会参加することを 受容しにくいという結果が得られた.Study3では,規範的ステレオタイプが高齢者に及ぼす影響を 検討した.具体的には,規範的ステレオタイプを感じやすい高齢の参加者ほど若者へのネガティブな 態度が強く,抑うつ傾向が高かった.Study4では,高齢者の社会参加に着目し,その意義を若者の 参加者に提示することで,高齢者の社会参加を受け入れる傾向が強くなるという結果が得られた.高 齢者に対する規範的ステレオタイプや否定的態度について,今後も包括的に検討することが求められ る.
  • 庄嶋 健作
    2024 年2024 巻16 号 p. 81-89
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2026/02/17
    研究報告書・技術報告書 フリー
    健康長寿の実現にはサクセスフルエイジングの観点が重要であり,主観的幸福感を高めることはそ の基盤となる.本研究は地域在住高齢者の主観的幸福感に寄与する要因を明らかにすることを目的と した. 自立した高齢者のコホート調査(FESTA 研究)のデータを用いた.主観的幸福感はWHO のQOL 質問票(WHOQOL-BREF)を用いて,『楽しさ』『人生への満足感』『人生の意味』の3つの観点か ら評価した.844名の参加者のうち541名が2年間の追跡調査を完了した.初回調査では主観的幸福 感をもたなかったが,追跡調査で主観的幸福感をもつようになった集団を改善群とした. 初回調査の横断的解析で,睡眠満足感,医療施設へのアクセス満足感,JST 版活動能力指標で高 次生活機能の保持が,『楽しさ』や『人生への満足感』と正の相関を示した.また80歳以上と経済的 余裕があることは,『人生の意味』において正の相関があった.一方,横断的解析で,高次生活機能 の保持は『楽しさ』や『人生への満足感』の改善群と,女性であることは『楽しさ』や『人生の意味』の改善群と正の相関があり,医療施設へのアクセス満足感は『人生への満足感』,飲酒は『人生の意味』の改善群と正の相関があった. 本研究で得られた知見は,主観的幸福感を向上させるための今後の政策や地域での取り組みに役立つと考えられる.
  • ── 別居介護を経験した介護者への調査から──
    関野 明子, 涌井 智子
    2024 年2024 巻16 号 p. 90-106
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2026/02/17
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    【目的】近年,「別居介護」を選択する家族が増え続けている.しかし,別居介護の実証研究は非常に 少なく,その支援方法は確立されていない.そこで本研究では,在宅での別居介護の経験のある家族 介護者に直接インタビューをして,別居介護を選択・継続し,施設入所に至るまでのプロセスを聴取 し,別居介護継続中の困難や,別居介護の断念に至った具体的な要因,つまり別居介護の限界点を明 らかにする. 【方法】研究1では質問紙調査を行い(分析対象:1,299件),別居介護者の精神的負担感に影響を与 える要因について,同居介護の場合と比較をし,別居介護の特徴を明らかにした.分析方法には二項 ロジスティック回帰分析を用いた.研究2では研究1の結果からインタビューガイドを作成し,8名 の対象者に半構造化面接を行った.分析方法は質的内容分析を用いた. 【結果】別居介護も同居介護も認知症の症状が精神的介護負担感に有意な影響を与えていた.別居介 護は同居介護よりも,相談先があるほうが精神的介護負担感が高くなりにくく,最初に利用した介護 保険サービス数が,現在の精神的介護負担感に影響を与えていた.インタビュー調査では,別居介護 者は,生活が見えない不安,すぐに対応できない不安を感じていて,高齢者の安全確保の危機に見舞 われることで,その不安感が強化され,別居介護の断念に至っていた. 【考察】別居介護者は,高齢者の生活が見えない不安やすぐに対応できない不安を抱えている.相談 先にはそれらの不安を解消するための実利的な情報を求めていて,必要な情報を提供することが,別 居介護者への支援として有用である.一方で,別居介護者が直面する高齢者の安全確保の危機は,時 に解決が難しいため,別居介護を長く継続させることが支援の目的にならないように留意する必要が ある.
  • ── 質的データ分析手法SCAT を通して──
    田島 明子
    2024 年2024 巻16 号 p. 107-116
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2026/02/17
    研究報告書・技術報告書 フリー
    目的:介護老人福祉施設において高齢者にとって意味や価値のある重要な生活行為の実現のために, 伴侶動物との共生のための動物への支援方法を明らかにすること.研究協力者:伴侶動物との共生を 実現するA 介護老人福祉施設のケアスタッフ4人.方法:個別的・半構造化インタビュー調査を実 施.質的データはSCAT にて分析した.4人の分析結果の類似性・差異性に着目した比較検討により 考察をした.結果:4人のストーリー・ラインと理論記述を作成した.考察:高齢者施設における高 齢者と伴侶動物との共生は,集団性の利点を生かし課題を解消する対応が求められた.入居する高齢 者にとって,飼育者としての役割の継続性が担保されるとともに,動物とのふれあいの機会提供とい う意味合いをもち,伴侶動物が亡くなった際には集団性のなかで心的苦痛が緩和される利点があった. 一方,動物の特性に見合った対応と認知症の人と動物との良好な関係づくりが課題であった.
  • 谷田 純, 中山 文
    2024 年2024 巻16 号 p. 117-124
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2026/02/17
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    本研究では,高齢者に生きがいをもたらす演劇活動を促進するため,高齢者の演劇参加における課 題解決の手段として先端的光技術の応用による演劇活動支援を導入し,その有効性を明らかにすると ともに,高齢者の社会活動寿命を延ばす新たな手法としての可能性を示すことを目的とした.上演に 参加する高齢者を想定した演劇活動支援装置として,空中字幕装置,遠隔モニタ装置,制御端末を作 製した.高齢者演劇に適した作品としてシェイクスピアの「リア王」を選び,これらの装置による実 験演劇を実施した.演劇台本に沿った演出として,リア王と娘たちを現代的な解釈のもと,年老いた 医師とその娘たちに置き換え,リア王は車いすに座って演技をする上演形態とした.車いす型空中字 幕装置を作製し,制御端末より台詞を遠隔操作した.実験演劇は,日本ジェンダー学会第27回大会 と第18回日本応用老年学会大会にて実施した.実験演劇参加者からの意見聴取により,高齢者演劇 に参加することで高齢者の社会活動寿命の伸長が可能であることが示唆された.本研究は,ジェロン トロジー分野における光情報技術の適用事例であり,この成果が新たな研究展開につながることが期 待される.
  • ── 夫婦間ディストレスの背景にどのような要因が関連しているのか──
    平山 順子, 柏木 惠子
    2024 年2024 巻16 号 p. 125-135
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2026/02/17
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    本研究は,高齢期の夫婦の間で「熟年離婚」や「家庭内離婚」が増えている現象に関心をもち,高 齢期に夫婦が抱える葛藤,緊張などの心理的問題を理解するため,「個人中心パラダイム」に立って 検討・分析を加えた.従属変数には夫・妻それぞれがパートナーに抱く感情・意識である「ディスト レス」(長津,2007)を,関連要因である独立変数としては,結婚の二大領域である,道具的領域(稼 得・家事・育児など)と情緒的領域(愛情・理解・支持など)に注目した.ここで,「ディストレス」 とは,「配偶者との関わりにおいて個人が感じる不快な状態」で夫婦関係の否定的評価である.道具 的領域としては夫婦のそれまでの家庭運営のあり方,情緒的領域としては「新しい結婚観」(柏木ら, 2003)の実現度を取り上げた. その結果,以下の知見が得られた.①夫に比べて妻のほうがパートナーとの関わりにおいて不快な 感情・意識を感じていた.②夫に比べて妻のほうが「パートナーからの愛情・理解・支持」を低く評 価しており,「相思相愛」でやってきたと認識している夫との“溝”が顕著であった.③妻では「育 児の分担比」「家計の分担比」が夫へのディストレスに規定力を示した.すなわち,自分も家計に貢献 してきたのにもかかわらず,子育てでの負担感が大きかったと思っていることが,現在の夫婦間ディ ストレスを高めていた.高齢期の夫婦間ディストレスの背景に,家庭内の道具的領域における役割関 係の非対称性,情緒的関係における不平等性があることが実証的に明らかにされた.妻側に子どもは “2人の子ども”であり,育児は“2人の共同作業”であるべきとの思いがあったにもかかわらず,そ の期待が裏切られたことが現在の夫への不満の原因になっていた.子育て期が,夫婦関係にとってい かに重要で危機的時期であるかが示唆された.
  • ── セルフ・キャリアドックの視点から──
    堀 恭子
    2024 年2024 巻16 号 p. 136-146
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2026/02/17
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    本研究は,介護施設の介護の質と職員の働きやすさの向上を目指して,介護観と職業意識という視 点で,心理職が介入を行うアクションリサーチの報告である.研究Ⅰで職員の介護観とキャリア・コ ミットメントを問う質問紙調査を行ったところ,職員の介護観は以下の3因子構造で,因子間相関に より,第2因子の「利用者の安心重視」が第1因子の「利用者・自分の行動への振り返り重視」と第3 因子の「家族の意向・利用者の安全重視」双方に相関が認められた.また職業観については,1因子 構造であり,年齢に関係なく経験年数が多い群で介護に対する職業意識がより高い傾向があるという 結果を得た.続いて介入として予定されていたセルフ・キャリアドック(厚生労働省が推奨する組織 の人材育成と働き手のキャリア形成促進双方を目指す取り組み)形式のグループワークセッションが 研究環境の変化により動画配信と質問紙実施に変更となり,質問項目は介入時のテーマをそのまま用 いた(研究Ⅱ).結果として,多くの職員が認知症への理解や介護改善とその実現のためのスキルを 模索しており,職務理解に関して年齢20歳代・経験年数5年未満の層の回答が少なく,この層への アプローチが必要であった.また職員の得意なこととして,コミュニケーションスキルが多く挙げら れている一方,会議や発表を苦手と考えている職員もいて,個人差が大きいこと等,研究Ⅰで得た職 員像に,新たな職員像を加えることができ,介入をする場合の手がかりを得ることができた.
  • ── デイサービスセンターにおける対人関係形成に関する心理教育法の開発に向けて──
    三宅 沙侑美, 山野 洋一, 田中 共子
    2024 年2024 巻16 号 p. 147-173
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2026/02/17
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    本研究では,デイサービスに勤務する介護士の対人関係形成能力をソーシャルスキル(以下,SS) の枠組みでとらえた.そして,介護士のSS 向上のための心理教育法の開発に向けて,利用者と介護 士の双方の視点から調査を行った. 研究1では,利用者を対象に2つの調査を実施した.①質問紙調査:208人が分析対象となり,KJ 法を用いて分析した.その結果,利用者が介護士に信頼感を抱いた場面として5つの場面と,場面ご とに信頼感を抱かせる介護士の関わりとして8つのカテゴリーを見いだした.②面接調査:12人が 分析対象となり,修正版グランデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて分析した.その 結果,37個のカテゴリーと12個の概念が見いだされ,利用者と介護士の信頼関係構築プロセスが明 らかとなった. 研究2では,介護士を対象に2つの調査を実施した.①質問紙調査:デイサービス介護士のソーシャ ルスキル尺度群(DCSI)原案と関わり肯定感尺度原案を作成し調査を実施した.500人が分析対象 となりDCSI と関わり肯定感尺度の因子構造を明らかにし,信頼性と妥当性を確認できた.②質問紙 調査:DCSI を基に,DCSI 短縮版原案を作成し,調査を実施した.500人が分析対象となりDCSI 短縮版の因子構造を明らかにし,信頼性と妥当性を確認できた. 今後は,介護士の対人関係形成能力向上のための心理教育プログラムを開発し,その効果を検証す ることを課題としたい.
  • 森 裕樹, 佳典 藤原
    2024 年2024 巻16 号 p. 174-181
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2026/02/17
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    本研究は,男性高齢者が参加したいと思える活動と彼らを地域活動へとつなげる通いの場モデルを 開発し(研究1),社会実装を通じてその効果検証を行うこと(研究2)を目的とした. 研究1では,「粘土で作るフェイクフード」と題したモデルで3回連続講座を開催し,男性4人に 初回と最終回の2時点で健康状態,幸福度,外出頻度,WHO-5とフレイルリスクを,後者はさらに 講座参加の感想や難易度,講座期間中の変化,参加者同士の交流状況,自主グループへの参加状況と その内容,本モデルを活動に取り入れる意思をたずねた.イノベーション普及理論を参照し,本モデ ルの妥当性を検討した結果,両立可能性や試行可能性,観察可能性が確認された一方で,複雑性や相 対的優位性の課題が残された. 研究2では,上記モデルに修正を重ね「ミニチュア食品模型(フェイクフード)講座」と題した1 回講座を既存の通いの場で開催した.男性6人に開始前と終了後の2時点で研究1と同様の調査項目 および,今後のものづくり等の活動への参加意思をたずねた.8つの評価指標からモデルを検証した 結果,受容性や採用,適切性,実施可能性,忠実度が達成された一方で,費用や浸透度,持続可能性 が検討課題となった. 以上から,ものづくり活動を中心に組み立てる男性高齢者を対象とした通いの場モデルでは,参加 者の経験値や特性を踏まえ,活動難易度や活動期間を調整することが重要であると示唆された.
  • ── 成年後見人等による生活支援を分析軸として── 東
    税所 真也
    2024 年2024 巻16 号 p. 182-193
    発行日: 2024/10/31
    公開日: 2026/02/17
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    2025年に向けて,地域の自主性や主体性,地域の特性に応じた地域包括ケアシステムの整備が進 められてきた.地域包括ケアシステムが目指すのは,高齢者の尊厳を保持しながら,可能な限り住み 慣れた地域で,自分らしく生活し,高齢者が最期まで地域で暮らし続けることである.この地域包括 ケアシステムを推進する手段のひとつとして,任意後見制度の活用があると筆者は考えるが,そうし た論考はこれまであまり注目されてこなかった. そこで,従来家族や親族といったインフォーマルな関係性に頼ることが前提となってきた,いわゆ る成年後見/生活支援を地域で支えていく手段のひとつとして,任意後見制度を位置づけ,後見人等 の支援を分析した. 先行研究の検討を通して,後見人等として本人の財産管理と生活にともなうさまざまな契約行為を 扱う成年後見の支援では,脱専門職化,生活感覚,市民としての専門性といった観点が重要であるこ とを指摘した. そして,任意後見の担い手として市民後見かつ法人後見のかたちをとり互酬性を組織原理とする生 活協同組合ワーカーズコレクティブが実施する成年後見事業を取り上げ,インタビュー取材とそれに よる事例検討をおこなった. この結果,生活協同組合ワーカーズコレクティブにおける成年後見の支援の特徴として,以下を考 察した.すなわち,多様なアクター間で重層的に意思決定にかかわる支援が行われていること,いわ ば全人的な支援が行われる一方で,支援が無限定になりやすい傾向があること,さらに,質の高い支 援を良心的な価格でワーカーズコレクティブが提供することを可能にした構造的な条件として,その 担い手として高学歴・高経済階層の中高年の女性たちが,集合し,参画していたことなどである.
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