日本原子力学会和文論文誌
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水銀球衝突によるマイクロピット形成挙動
石倉 修一粉川 広行二川 正敏神永 雅紀日野 竜太郎齊藤 正克
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2004 年 3 巻 1 号 p. 59-66

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抄録
日本原子力研究所(JAERI)は高エネルギー加速器研究機構(KEK)と共同で,大強度陽子加速器を用いた複合研究施設J-PARC (Japan Proton Accelerator Research Complex)の建設を進めている。その中核施設となるMW規模の核破砕中性子源の建設は世界で初めての試みであり,中性子収率や熱除去等を考慮して液体水銀を陽子ビームの標的(ターゲット)に用いる。水銀ターゲットには,Fig. 1に示すように,3GeV/1MWの陽子ビームがパルス幅1μs, 25Hzのサイクルで窓部を通過して水銀に入射する。このとき,水銀ターゲットでは核破砕反応により,1パルスあたり最大18.5J/ccの高密度の熱が発生する。それに伴い水銀が熱膨張するが,温度上昇速度が水銀の膨張速度よりも速いために瞬間的に圧縮状態となり,約52MPaの圧縮場が発生する。それを基点として圧力波が周囲に伝播し,ターゲット容器に動圧として作用する。この動的作用が2×108回程度(ターゲット容器の使用時間を2,500hとして)繰り返すために,ターゲット容器の構造健全性を確保する上で重要な課題となる。
そこで,液体水銀を弾性液体と仮定して水銀の圧力変動に関する解析を行い,圧力波の伝播と窓部変形の相互作用により,ターゲット容器先端の陽子ビーム窓部で最大約105MPaの応力が発生するとともに,圧力波が窓部で反転する際に,負圧(引張り応力)が生じることを明らかにした。水銀中での負圧の発生はキャビテーションを誘起する可能性が高く,キャビテーション気泡の崩壊に伴って発生するマイクロジェットや衝撃波により,接液界面である窓部表面において壊食損傷(ピット)を生じることが予想される。
ピットの形成に関連した解析的検討の代表例としては,液滴が亜音速で固体壁に衝突するときの解析評価例と,収縮気泡が再膨張するときに周辺液体に発生する衝撃波を対象とした評価例がある。前者はマイクロジェットによるピット形成に対する考察として有意義であるが,キャビテーションとの関連はない。後者は衝撃波に対する解析評価であり,固体の構成モデルは静的な弾塑性体の扱いである。キャビテーションによるピット形成の重要な因子であるマイクロジェットによるピット形成を気泡の挙動から固体壁への衝突現象まで統一的に検討した例は見られない。
本報では,まず水銀中にマイクロ気泡が存在するときの圧力波の伝播挙動に伴う気泡の挙動を,気泡動力学によりシミュレーションを行い,気泡の収縮速度を評価する。次に,マイクロジェットが収縮速度で固体壁に衝突すると仮定して,マイクロジェットがピット形成に及ぼす影響を,水銀の非線形性と固体壁の歪速度硬化を考慮した連成解析により材料強度の観点から考察する。
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© by the Atomic Energy Society of Japan
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