2025 年 77 巻 2 号 p. 49-69
本研究の目的は,構成樹種の生活史特性を踏まえて,針広混交林の長期的な変化を明らかにすることである。東北地方太平洋側南部の代表的な植生であるモミ-イヌブナ林に設置された永久調査区の60年間の継続調査を実施した。その結果,主要構成種の組成や相対優占度はあまり変化しておらず,この森林は長期間維持されていた。2011~2021年には,樹種別の生活史特性を反映した変化がみられ,萌芽更新を行うイヌブナやアワブキの新規加入率が高くなるなど,落葉広葉樹の減少傾向が鈍化した。階層構造も変化しており,イヌシデやアカシデが高木層に偏っていく一方で,アワブキは低木層に集中するようになった。ヤブムラサキ,イヌツゲ,イヌガヤなどの低木種が顕著に増加しており,低木層に形成されていたモミの前生稚樹集団の個体数は減少した。モミの小径木は林冠木と排他的に分布しており,耐陰性の高いモミであっても暗い林内での更新は難しいと考えられた。これらの結果から,モミ-イヌブナ林では樹種ごとの生活史特性を反映した階層構造の分化が進展しつつあり,60年間で複雑な森林構造をもつ,多様な樹種を含む森林へと成熟しつつあると推察された。