抄録
【目的】脳卒中片麻痺者(以下片麻痺者)において荷物の持ち方は様々である。今回、荷物の持ち方の違いによるバランス能力と歩行分析を行い比較検討したので報告する。
【対象】本研究の内容を説明し同意を得た屋外杖歩行が自立している片麻痺者6名(男性5名、女性1名)、下肢のBrunnstrom recovery stageは全例3で、身長165.8±4.6cm、年齢53.3±3.1歳、体重60.2±7.2kgであった。
【方法】ニッタ(株)製Gait Scan4000、ユニメック(株)製重心動揺計(JK101)を使用した。荷物の重さは体重の4%とし、荷物の持ち方は荷物なし、手荷物(非麻痺側に買い物袋を手関節に掛ける)、ショルダーバッグ(麻痺側肩から非麻痺側への斜め掛け)、リュックの4通りとした。バランス能力の測定は杖を使用しない立位で前後・左右へ可能な限り重心移動しX・Y方向最大振幅、外周面積を測定した。歩行分析は杖歩行を最大歩行速度で実施し、歩幅、歩隔、遊脚時間、両足接地時間、歩調、歩行速度を測定した。データ補正として距離因子は身長で、時間因子は重複歩時間で除した値とした。以上の方法で4通りの持ち方のそれぞれ比較検討を行った。統計学的分析はWilcoxon検定を用い有意水準は5%未満とした。
【結果】バランス能力はX・Y方向最大振幅、外周面積ともに有意差を認めなかった。歩行分析は、歩幅:1)手荷物が他に比べ非麻痺側が有意に短縮した。2)荷物なしに対してショルダーバックで麻痺側が有意に短縮した。歩隔:ショルダーバッグに対して手荷物で麻痺側・非麻痺側共に有意な増大を認めた。遊脚時間:荷物なしに対して手荷物で非麻痺側の有意な短縮を認めた。歩調:リュックに対し手荷物で有意な低下を認めた。歩行速度:荷物なし、リュックに対して手荷物で有意な低下を認めた。
【考察】バランス能力では、荷物を持つことにより持っている方向への重心移動が強いために全体的には有意差を認めなかったと考える。歩行分析の結果のうち歩幅1)について、杖を垂直方向へ荷重することが困難であるためだと考えられる。2)について、澤口らは重心位置の変化により重心移動の減少で歩幅が短縮すると報告しており、今回も同様な結果であったことが考える。歩隔については宿輪らは荷物が身体重心に近い方で動揺が少ないと報告しており、今回も手荷物の方が身体より離れる為に動揺が大きくなった結果、歩隔が増大したと考える。遊脚時間については杖への荷重の影響で歩幅が短縮した為に低下したと考える。歩調については非麻痺側の歩幅の低下が要因と考える。歩行速度については手荷物の方が歩幅および歩調の低下の影響で低下したと考える。以上のことから荷物の持ち方は身体により密着し、身体の中心に近い方がより安定した歩容が得られると考える。