抄録
【目的】近年、リハビリテーション(以下、リハビリ)施行時の栄養管理が重要視されている中で、当院では2009年11月よりNST運営委員会(以下、NST)に理学療法士(以下、PT)2名が加わり、リハビリとNSTの協働による栄養障害を有する方(以下、低栄養者)へのADLとQOLの向上を図ってきた。低栄養者へのリハビリと栄養管理はADLやQOLの向上に効果的であるとされる報告や栄養状態の改善がADLの向上に繋がるという報告は散見されるが、低栄養者のADL向上の要因を検証した報告は少ない。低栄養者のADL向上要因を検証することはリハビリ施行時の目標設定や運動負荷の調整などのリスク管理にも繋がると考えられる。そこで今回、低栄養者のADLに影響を与える要因についての検討を行い、今後の課題について考察する。
【方法】当院にて2010年度にNST依頼のあった104例中、理学療法施行し、脳血管・脊髄・神経筋疾患と死亡例を除いた34例(男性21例、女性13例)を対象とした。主疾患の内訳は心疾患7例、呼吸器疾患12例、その他15例であった。対象の退院時のBarthelIndex(以下、退院時BI)と年齢、リハビリ開始時のBI(以下、開始時BI)、退院時BMI(以下、BMI)、退院時TP値(以下、TP値)、退院時Alb値(以下、Alb値)の関係をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。また、退院時の栄養経路(以下、栄養経路)が経口にて全エネルギー量摂取可能な経口群と、静脈栄養などを必要としたその他の2群に分け、2群間の退院時BIをU検定を用いて比較した。なお、各検定の危険率5%未満を統計学的有意水準としたがSpearmanの順位相関係数については、さらに相関係数が0.4以上もしくは-0.4以下をもって相関ありとした。
【結果】対象の退院時BIは38.6±37.5%、年齢は79.3±10.1歳、開始時BIは13.9±23.9%、BMIは17.5±2.44%、TP値は6.3±1g/dl、Alb値は2.49±0.5g/dl、栄養経路は経口群が22例で退院時BIが56.8±34.9、その他が12例(食事+PPN2例、TPN7例、PPN2例、経腸1例)で退院時BIが5.4±5.4であった。退院時BIと他の要因との相関関係は、年齢ではr=-0.41、p=0.015で負の相関関係にあった。開始時BIではr=0.58、p=0で正の相関関係にあった。BMIではr=-0.07、p=0.65で相関関係は無かった。TP値ではr=0.48、p<0.05で正の相関関係であった。Alb値ではr=0.12、p>0.05で相関関係は無かった。栄養経路での退院時BI値の比較では経口群がその他の群よりも有意に高い値となった。(p=0)
【考察】今回の調査により低栄養者のADL向上要因には、年齢、開始時BI、TP値、栄養経路が挙げられた。年齢に関しては高齢者では加齢によるADL低下などによりADLが向上しにくい一方で、低栄養者でも若年者はADLが向上しやすい事が示唆された。開始時BIに関しては低栄養者でADLが低下した状態ではADLの向上が難しく、入院早期からのリハビリが必要と考えられる。TP値に関しては栄養状態の指標であり、TP値がADL向上の際の栄養状態の指標になることが示唆された。しかしながら、同じように栄養状態の指標として用いられているAlb値に相関関係が無い事からADL向上にはAlb以外のタンパク成分の関与が関係する可能性も考えられた。栄養経路に関しては、経口群で退院時BIが有意に高い事より経口摂取は単に栄養補給をするだけでなく消化管を使用する事で最も効率よく、また正常に栄養を吸収・活用出来るため、栄養状態の改善が促され、それらが結果としてADL向上の一助になると考えられ、経口摂取可能になる事がADL向上の指標になることが示唆された。また、BMIが退院時BIと相関関係が無い事については栄養状態の改善により摂取エネルギー量が増加する事で体重の増加に繋がる一方で、ADLが向上し活動量が増加する事で消費エネルギー量の増加する事が体重減少に繋がる為、BMIと退院時エネルギー量はADL向上の要因とは考えにくい事が示唆された。今回の結果を踏まえて、ADL向上に向け早期のリハビリ、NST介入開始の促進、経口摂取を可能にするための多職種の連携、ADL向上要因を踏まえた上での適切なリハビリの目標設定を行い運動負荷量の調整などの必要性が考えられた。そして、ADL向上要因を持たない対象のリハビリ、栄養管理をどのように行っていくかが課題として考えられた。
【まとめ】低栄養者のADL向上要因について検証した。結果、年齢、リハビリ開始時BI、退院時TP値、栄養経路が関与すると考えられた。結果を踏まえ、早期のリハビリと栄養管理が重要と示唆された。