抄録
【緒言】医薬品の安全性評価において血圧は心電図とともに重要な生理機能検査項目の1つである。血圧は,毎回の拍動に伴う変動に加えて,体動や呼吸による変動が重畳し,さらに日内変動や生活環境に依存して,規則的あるいは不規則に変動する。また,測定に際して,人との接触,測定環境による影響を受けやすいため,薬物の循環機能への影響を正確に評価することが困難となる場合も少なくない。そこで,人との接触後に循環動態が回復する過程についてtelemetry送信器を埋めたイヌを用いて詳細に検討した。【方法】ビーグル犬にtelemetry送信器(TL11M2-D70-PCT)を埋め込み,約2週間の回復期間を設けた後,個別収容の遮音室または通常の飼育室で循環機能解析装置(Softron ECG Processor SBP2000,SRV2W)を用いて血圧および心電図を測定し,データを解析した。データの解析は,人が遮音室または飼育室に入室する1時間前から退室後2時間までとした。入室時間は5分程度であった。【結果および考察】実験者の接触に伴う血圧および心拍数の上昇が,人が接触する前の状態に回復/安定するまでに退室後20~30分を要した。また,遮音室と飼育室で記録されたデータから,両室とも安定するまでの時間に差異は認められず,同居動物からの影響は少なかった。さらにRR間隔および血圧の変動は,人が入室した際には変動幅が小さく,安静時ほど大きく変動しており,安静時の呼吸性不整脈の影響と考えられた。なお,本実験結果はイヌの収縮期/拡張期血圧自体が非常に短時間に細かく変動しながら継続的に推移していることを示しており,特定のタイムポイントのみで行われる毒性試験での血圧評価に際してはこの変動幅を考慮する必要があることが示唆された。