抄録
テトラブロモビスフェノールA [2,2-bis(3,5-dibromo-4-hydroxyphenyl)-propane] (TBBPA)は、電化製品用合成樹脂やプリント回路基盤などに難燃剤として多量に用いられ、河川底質土、野生生物や室内環境で検出される。TBBPAは、鳥卵の致死毒性、仔ラットでの腎毒性、免疫抑制作用や神経伝達阻害作用が報告されている。近年、食用魚類や人血清から検出され、胎児への影響が懸念されるため、胎盤通過についてマウスで検討した。TBBPAは東京化成工業製(純度>98%)を用いた。妊娠15日のICR雌マウスに、1600mg /kg体重(オリーブオイル懸濁)を経口投与し、1, 3, 6, 24時間(hr)後、各3匹から親マウスの血液(EDTA処理全血)と胎児、羊膜、胎盤、羊水を採取し親1匹ごとにまとめて重量測定した。親マウス血液、胎児、羊膜、胎盤はメタノールで20%ホモジネートとし、羊水は等量のメタノールを加え、遠心分離し、上清をHPLCで分析した。HPLC分析は、分析用逆相カラムInertsil ODS-3、溶出液80%m Methanol 1mM Acetate Ammonium、流速0.8ml/分、カラム温度35℃、検出波長295 nmで行った。親マウス血液中のTBBPAは、投与後1hr 5.3±3.0μg/ml(3匹の平均±SD)が最高で、以後減少した。親マウスへの投与後1, 3 , 6, 24hrのすべての胎児、羊膜、胎盤、羊水でTBBPAが検出された。最も濃度が高かったのは羊膜(最高3hr 13.8±4.4から最低24hr 2.4±0.7μg/g)、次が胎児(最高3hr 9.2±1.6から最低24hr 1.8±1.0μg/g)で、いずれも、親マウス血液、胎盤(最高1hr 4.4±1.2から最低24hr 1.1±0.0μg/g)および羊水(最高1hr 0.4±0.2から最低6hr 3.4±0.6 μg/ ml)よりも高かった。親マウス血液中よりも胎児中の濃度が高かったことから、TBBPAの母体-胎児間分布の詳しい検討とともに、胎児や出産仔の発育への影響も検討する必要が示唆された。