抄録
2-(2’-Hydroxy-3’,5’-di-tert-butylphenyl)benzotriazole (HDBB)は建材や自動車部品などのプラスチック樹脂成型品に紫外線吸収剤として使用されている。我々は、昨年の本学会において、ラットへのHDBBの28日間反復経口投与により、特に雄で肝臓への顕著な影響が認められたことを報告した。今回我々はHDBBの52週間反復投与毒性試験 (OECD試験ガイドライン452準拠)を実施したのでその結果を報告する。CD(SD)IGSラットにHDBB (雄: 0.1, 0.5, 2.5 mg/kg/day、雌: 0.5, 2.5, 12.5 mg/kg/day)を強制経口投与した。動物数は1群雌雄各20匹とし、対照群には溶媒 (コーンオイル)のみを投与した。その結果、雄では、2.5 mg/kg群で投与36日より体重が低値を示し、投与終了時には0.5 mg/kg以上の投与群で赤血球数の低下、さらに2.5 mg/kg群ではヘマトクリット値の低下が見られた。雌ではこれらの変化は認められなかった。血液生化学検査では、アルカリフォスファターゼ、グルコース、A/G比の増加などが、雄の0.5 mg/kg以上、雌の12.5mg/kgの各投与群で認められた。同投与群では、さらに、肝臓の絶対及び相対重量の増加がみられ、病理組織学検査では、小葉中心性肝細胞肥大 (0.5及び2.5 mg/kg投与群の雄、12.5 mg/kg投与群の雌)、明細胞性変異肝細胞巣 (0.5及び2.5 mg/kg投与群の雄)、肝細胞の嚢胞状変性及びリポフスチン沈着 (2.5 mg/kg投与群の雄)が観察された。以上の結果から、HDBBの無毒性量は雄では0.1 mg/kg/day、雌では2.5 mg/kg/dayであると結論された。