工業用途に使用される化学物質の中でとりわけ機能性化学物質は、高度なテクノロジーが求められる高性能電池や次世代半導体開発等において不可欠の重要な要素であり、優れた機能性を有する化学物質をいかに迅速に、効率的に創製するかが我が国の産業の競争力強化に向けた課題である。
一方で、機能性の追求と毒性は不可分であり、周知のとおり国内においては新規な化学物質の上市時「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(以下化審法)の届出が義務付けられており年間国内で一定量以上生産・輸入される新規物質は生分解試験、蓄積性試験およびスクリーニング毒性試験が求められる。
このうち「哺乳類を用いる28日間反復投与毒性試験」は動物に被験物質を28日間毎日反復投与したときに現れる生体の機能及び形態の変化を観察することにより、被験物質の毒性を明らかにすることを目的とするものであるが本試験では一般的に期間約6か月、1200万円以上のコストがかかっているのが実体である。
現在、化学物質の研究開発コストの削減と動物愛護の観点から、欧米では動物を使った従来の毒性試験に替わる試験(インビトロ試験及びインシリコ手法)の開発が推進されている。このような状況で我が国は、化審法に基づき40年間にわたり蓄積された質の高い膨大な動物実験データを用い、人工知能技術や毒性学、分子生物学等の最新の研究成果を活用し、化学物質の毒性発現機序に基づく高精度な有害性予測手法を開発することを目指すことが求められた。本講演では本有害予測システム開発プロジェクト(AI-SHIPS)の推進するうえで具体的内容、課題と米国EPAや欧州における同様なシステムの開発状況を概説する。