主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
心血管疾患は多くの国で死亡原因の上位を占める。血管内皮透過性の増大は動脈硬化や高血圧の前段階とされる。ダイオキシン類の汚染レベルはヒトの心血管疾患の発症と関連することを示唆する疫学的証拠がある。小型熱帯魚であるゼブラフィッシュ(ゼブラ)の胚稚魚(孵化前が胚、後が稚魚)は、げっ歯類や魚類の代替in vivoモデルとしてすでに実用段階にあり、毒性試験や医薬品候補のスクリーニング系として使用されている。動物実験に厳しいEUで動物倫理の対象から除外されていることも大きな利点である。ゼブラは通常の顕微鏡下で血流や心臓の拍動、浮腫の状態をリアルタイムで同時観察することができる。ゼブラは複数のaryl hydrocarbon受容体(AHR)を持つが、ほぼAHR2がダイオキシンによるシトクロームP450 1A(CYP1A)誘導や毒性を介在する。我々はこれまで、脳血流や心臓周囲の浮腫を画像解析により定量し、プロスタサイクリン(PGI2)や2型シクロゲナーゼ(COX2s)-トロンボキサンからなるプロスタグランジン経路が浮腫や血流障害に関与することを示してきた。ダイオキシンによる心毒性が数多く報告されているが、我々は血管内皮が主な標的である証拠を得ている。TCDD毒性において酸化ストレスの関与もよく知られているが、詳しい機序は不明である。ゼブラ胚稚魚の浮腫は環境汚染物質も含む酸化ストレス誘発剤によって増悪され、抗酸化剤や抗酸化反応の制御因子であるNrf2の賦活剤で抑制される。酸化ストレス誘発剤はトロンボキサン受容体(TP)作動薬による浮腫も増強する。本シンポジウムではTCDDの循環毒性の発現機構について紹介する。