本稿は、Howard-Grenville et al. (2016) の第10章「関係的なパワー、人格および組織」を紹介したものである。第10章は、これまでの章とは異なり、組織ルーチン論から離れ、プロセス哲学の視点から、関係的なパワーのもたらす創造性について提言している。本稿では、第10章の概要を紹介したうえで、プロセス哲学の視点と組織ルーチンのプロセス学派の共通点や、プロセス学派の描く世界観の行方について論じる。
本稿は、Howard-Grenville et al. (2016) の第8章「複雑なイノベーション・プロジェクトにおけるチーミング・ルーチン」を紹介したものである。第8章は、複数のエキスパートが前例のないプロジェクトの成功に向けてともに活動し、革新的な成果を得ることを目指す「複雑なイノベーション」に注目し、その成功要因を検討している。著者らは、アメリカのフロリダ州で行われたノナ湖プロジェクトをとりあげて、プロジェクトが成功に至るまでのプロセスを検討した。すると、同プロジェクトでは、その時々の状況に応じてエキスパート間で行われる調整と協働を意味する「チーミング」が効果的に行われていた。また、その背景には、チーミングを促進させる二つのチーミング・ルーチンと、チーミング・ルーチンを実現する三つのリーダーシップ行動があった。本章からはまた、複雑なイノベーションの文脈では、リーダーがルーチンを意図的につくることや、ルーチンの遂行的側面から直示的側面がつくられることが示唆された。本稿では、第8章の概要を紹介したうえで、改めてルーチン研究への貢献と課題を解説し、今後の発展の可能性を論じる。
本稿は、Howard-Grenville et al. (2016) の第6章「プロフェッショナル・ルーチンにおける接続性への人工物の役割を紹介したものである。第6章は、プロフェッショナル・ルーチンに焦点を当て、アクターと人工物は、それぞれ単独ではなく不可分な関係のなかでルーチンが構成されることを提言する。アクターと人工物が絡み合うなかで、プロフェッショナル・ルーチンにおける「個人」「専門職」「集合的業務」の接続性の基盤となっていると示唆し、フレームワークとして提示している。本稿では、第6章の概要を紹介したうえで、改めてプロフェッショナルとは何かを確認し、Jarzabkowski, Bednarek, and Speeからの発展の可能性を論じる。