乾燥地における経済開発に関しては、これまで、オアシス農業やサバンナ地帯での降雨依存農業から灌漑農業への変化について明らかにした相馬・古澤(2010)や牧畜民の資源利用の実態を捉えた池谷(2006)などにみられるように、農牧業開発の側面から検討された研究が少なくない。最近では、乾燥地を観光の消費対象としたツーリズムの可能性を検討した菊池・有馬(2010)や核実験場などの特殊な利用について言及した門村(2010)、さらには、乾燥地都市の発展の特徴について明らかにした山下(2009)など、これまでとは異なった視角から乾燥地における経済開発を検討する試みもみられ、乾燥地の経済開発と利用は、今日、これまでとは異なった動態を確認できる。
とはいうものの、乾燥地に位置する国のなかには、自国の資源開発により経済成長を目指している国も少なくない。鉱産資源を中心とした一次産品の輸出に依存する経済構造は、必ずしも地域の持続的な発展に寄与することにはならない可能性が高いものの、資源開発以外の産業発展が必ずしも期待できない乾燥地にとっては、資源の開発と輸出に依存せざるを得ないことも事実である(北川 2014)。乾燥地においては、その自然環境の過酷さ故に基幹産業となる部門は限られており、鉱業に依存する場合が少なくない。現在でも、モンゴルや中国などの発展途上国の乾燥地においては鉱産資源の需要の高揚とともに鉱山開発が多くの地域で急速に進められている。しかしながら、そうした鉱山は、資源が枯渇すれば、いずれは廃鉱となる。廃鉱山とその周辺に立地する鉱山集落や地域においては、廃鉱に伴う基幹産業の喪失と無住化を経て、集落や地域そのものが廃棄される事例も多く認められる(Sayers,C.E. 1987)。乾燥地の場合、代替される基幹産業が限定されるため、地域の再生が図られることは希であり、集落が廃棄される可能性は極めて高い(北川 2016)。
乾燥地科学に政策科学的な貢献が求められつつある今日、こうした乾燥地の鉱山集落や地域における廃鉱後の持続的な経済開発の方向性について検討することは、Future EarthやSDGsなどが掲げる持続可能な開発目標に照らすと、喫緊の課題となるであろう。
そうしたことから、本報告においては、西オーストラリア州ゴールドフィールズエスペランス(Goldfields-Esperance)地区(以降、ゴールドフィールズ)の乾燥地における多種多様な廃鉱山集落を事例として、乾燥地の廃鉱山集落群における地域再生の取り組みについて検討したい。その際、予察的ながらも、「地域の資源化」という視角から、こうした地域再生のメカニズムを捉えることを試みた。「地域の資源化」とは、衰退地域にこれまでとは質的・量的に異なる「場の付加価値」を付与する作業であると考えているが、これに加え、場の「ネットワーク化」にともなう「場の付加価値増大」というプロセスにも注目したい。
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