地球環境
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27 巻, 2 号
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序論
  • 増井 利彦, 高橋 潔, 亀山 康子
    原稿種別: 序論
    2022 年27 巻2 号 p. 71-76
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2024/06/07
    ジャーナル フリー

    気候変動影響を最小限に抑えるための努力が進展しつつある。2015 年に採択され たパリ協定で,長期的な気温上昇幅を2℃,さらに,1.5℃以内に抑える目標が明記さ れた後,気候変動に関する政府間パネル(IPCC)から1.5℃に関する特別報告書が 2018 年に公表され,2℃ではなく1.5℃をまずは目指すべきという認識が世界中で共有 された。そのためには,世界の二酸化炭素排出量を2050 年までにネットゼロ(カー ボンニュートラル,脱炭素,実質ゼロとほぼ同義)まで減らさなくてはならない。こ の目標を踏まえ,多くの国がネットゼロを長期目標として掲げるようになった。本特 集号では,このような状況の中で,日本が2050 年までにネットゼロに至るための技 術的課題や,政策パッケージ,そして,社会経済的な状況まで,多彩な学問分野での 議論を包括する。単に排出量削減の問題としてではなく,社会変革としての提起を目 的とする。

論文
  • 日比野 剛, 芦名 秀一, スィルバ エラン ディエゴ, 増井 利彦, 元木 悠子, 平山 智樹, 大田 宇春
    2022 年27 巻2 号 p. 77-86
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2024/06/07
    ジャーナル フリー

    日本ではパリ協定における気温目標を踏まえて,2050 年までに温室効果ガス(GHG) 排出量の実質ゼロを目指すことが2021 年に法制化された。そこで,2050 年にGHG 実質ゼロを実現する技術の組合せ,エネルギー需給やGHG 排出構造の姿について定量的に表現することを試みた。応用一般均衡モデル,技術選択モデル,電源計画モデル を用い,将来の経済とエネルギー需要の整合性,技術導入速度の合理性,地域・時間単位での電力需給バランス等を担保しつつ,2050 年GHG 排出実質ゼロを実現する対 策の組合せを定量的に推計した。その結果,燃料利用から電力利用へのシフト,水素・ 合成燃料など新燃料の利用拡大,再生可能エネルギー利用の拡大など大幅なエネルギーシステムの転換の必要性,そして,残存する排出を相殺するため,ネガティブ排出対策の導入が必要であることが示された。また,社会変容による需要の低減は不確実性の高い対策への依存を低減し,ゼロ排出の実現可能性を高めることに繋がることが示された。

  • 西田 裕子
    2022 年27 巻2 号 p. 87-94
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2024/06/07
    ジャーナル フリー

     日本における自然エネルギー100%による2050 年脱炭素化のシナリオ研究をコスト最適化モデルにより行った。日本のエネルギーシステムを全国9 地域のマルチノードで1 時間ごとに需要と供給をバランスさせることを制約条件として,2020 年から2050 年までの5 年ごとにエネルギーシステムの年間総コストを最小化する最適化手法をとっている。シミュレーションの結果では,日本でも自然エネルギー100%により,エネルギーの需給バランスをとりつつ,大きなコストの増大なく移行が可能であることが示された。

  • 田村 堅太郎, 栗山 昭久
    2022 年27 巻2 号 p. 95-104
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2024/06/07
    ジャーナル フリー

     日本は2050 年ネットゼロ達成を掲げ,また,1.5℃目標に向けた努力についてもコミットしている。こうした目標達成に向けては,電力部門が他部門に先駆けて脱炭素化することが重要となり,同部門での高炭素型の事業を低・脱炭素型にスムーズに移行・転換させるような投融資スキーム(トランジション・ファイナンス)を促進することが重要となる。本稿は,日本の電力部門におけるトランジション・ファイナンス について,国際的な開示原則に照らしながら,早期の脱炭素化へ貢献する上での政策的な課題を検討し,その課題を踏まえた対応を提示することを目的とする。電力会社や金融機関がトランジション・ファイナンスを検討する際に参照することが推奨されている政策文書が1.5℃目標とは整合していないこと,2030 年以降の技術への偏重がみられること,炭素クレジットの扱いなどについての課題を指摘したのち,国,電力部門,個々の電力会社,そして金融機関に求められる対応を論じる。

  • 張 暁曦, 篠塚 真智子, 原 美永子
    2022 年27 巻2 号 p. 105-112
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2024/06/07
    ジャーナル フリー

     この20 年間,ICT サービスは凄まじいスピードで発展を遂げてきた。Covid-19 の 影響を受け外出自粛が続く中で,多くのオンラインサービスは飛躍的に拡大してきた。ICT の発展に伴い,ICT インフラの拡張やICT 機器の使用などICT 分野自体の電力需要増加による環境負荷増大が大きな懸念となる一方で,ICT 導入による生産効率化やエネルギー利用効率の向上,移動削減などが社会の環境負荷削減に大きく貢献してきた。本稿では,ICT 分野の発展動向及びICT に関する環境影響評価手法の関連研究をレビューするとともに,今後のICT 導入による社会の環境負荷削減ポテンシャル及び経済発展への効果を推計した。ICT サービスの導入により,BAU シナリオと比較して2030 年までにGDP の1.3%増加,GHG 排出量の4.7%削減が見られたことから,経済発展と環境負荷のデカップリングの可能性が示された。今後もICT の導入拡大による経済発展のみならず,脱炭素社会の実現に向けたグリーンICT の普及が大きく期待される。

  • 鈴木 政史
    2022 年27 巻2 号 p. 113-120
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2024/06/07
    ジャーナル フリー

    2015 年に合意されたSDGs とパリ協定という2 つの国際目標は,産業界全体が社会的・環境的な課題への取組とビジネスの関係をより一層検討する契機となっている。 2030 年までに2013 年比で温室効果ガスを46%削減するという政府目標は,企業の脱炭素化に向けた動きを加速させている。金融界においてはESG 投資がファイナンスの本流の一部となりつつある。企業にとってESG 投資の中で重要な課題の1つである気候変動への積極的な取組は,新しいESG 投資を呼び込む大きな可能性が存在する。本稿は,金融・産業界を取り巻く状況の変遷をレビューする。さらに,近年において金融界,産業界で脱炭素化に向けてどのような変化が起きているか検討する。金融界に関しては,株式投資とグリーンボンドの動向を探ると共に,それぞれの可能性と課題を指摘する。本項の最後では,都市と地方の格差や高齢化という日本の社会的課題の文脈で金融界と産業界双方共に脱炭素化への取組を進める必要性を強調する。

  • 金森 有子
    2022 年27 巻2 号 p. 121-126
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2024/06/07
    ジャーナル フリー

     我が国の家庭部門における2030 年度の温室効果ガス削減目標は,2013 年度比で66% 削減という非常に野心的なものである。この目標を10 年未満という限られた時間で達成するには,対策とその削減効果の関係を理解することが重要である。そこで本稿では,家庭部門の排出量の推移とその変化の原因を示したうえで,家庭部門の削減目標の達成に向けた分析結果を紹介し,分析結果に影響を与えるいくつかの変化について考察を行った。その結果,2017 年から2019 年では,エネルギーのCO2 排出係数の変化及び1人あたりエネルギー消費量の削減により,CO2 排出量が減少していた。また, 2030 年の削減目標の達成には,エネルギー機器の更新に加え20%程度の省エネが必要であること,機器の電化のスピードが遅くなると,CO2 排出量は8%程度増加することを明らかにした。2030 年度の温室効果ガス削減目標の達成にむけ,確実かつ適切な機器への更新が重要になることが分かった。

  • 花岡 達也
    2022 年27 巻2 号 p. 127-136
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2024/06/07
    ジャーナル フリー

    フルオロカーボン類の温室効果能力は大きく,わずかな量を大気中に排出しただけで,多くのCO2 を排出したことと同じ意味を持つ。本研究では,非CO2 温室効果ガスであるフルオロカーボン類に注目し,まず,それらの利用背景,温室効果の大きさ, 及び国際条約や国内規制の動向と課題を整理した。次に,我が国が直面している冷媒フロン類の問題に注目し,カーボン・ニュートラル目標にむけて期待される主な対策とその障壁,回収・破壊処理対策によるCO2換算削減量及び費用対効果について分析した。温室効果ガス排出量インベントリの報告対象であるハイドロ・フルオロカーボン(HFCs)だけでなく,報告対象外であるクロロ・フルオロカーボン(CFCs)及びハイドロ・クロロ・フルオロカーボン(HCFCs)にも注目し,これらを一体的にみて 排出削減対策を評価し,我が国における対策の強化及びアジア途上国への支援を進めていく必要がある。

  • 芦名 秀一
    2022 年27 巻2 号 p. 137-146
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2024/06/07
    ジャーナル フリー

     我が国全体と同様に地方自治体でもカーボンニュートラル社会への取組が広がる中,定量的情報に基づく将来計画作りが喫緊の課題となっている。本研究では,全国大でのカーボンニュートラル実現に向けた対策を地方自治体で一律に実施した場合の効果を定量的に評価し,地方自治体レベルでの脱炭素化の実現可能性を評価した。結果より,国全体の脱炭素化で想定される対策を着実に実施することにより,対策個々の効果はエネルギー需給構造に大きく影響されるものの,全体としては地方自治体レベルでもCO2 排出量の大幅削減が実現可能であることがわかった。また,地域の住民や企業の主体的な取組による削減量がおおむね総CO2削減量の半分以上であることから需要側対策は不可欠であるが,系統電力の脱炭素化やCCS の普及などの国レベルの取組(供給側対策)も同様に地方自治体レベルの脱炭素化には重要であることが明らかとなった。

  • 三上 直之
    2022 年27 巻2 号 p. 147-154
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2024/06/07
    ジャーナル フリー

    脱炭素社会への転換に向けた意思決定には,幅広い人びとが参加して,専門的な知 見もバランスよく取り入れつつ熟議するプロセスが求められる。脱炭素社会の構築に向けた議論を市民参加で行うための新たな仕組みとして,2019年から欧州諸国を中心に広がっているのが,参加者を一般から無作為に選出する気候市民会議である。この気候市民会議が日本でも全国に先駆けて札幌市と川崎市で行われ,その経験を踏まえて,2022 年度には埼玉県所沢市と東京都武蔵野市で行政が自ら主催する会議が開かれるに至った。こうした動きは,気候変動対策と民主主義の刷新を同時に進めようとする「気候民主主義」が日本でも芽生えつつあることを示している。一方で,日本での実践を通じて,一般からの無作為選出で多様な参加者をいかに集めるか,参加者に無理のない形で十分な会議時間をいかに確保するか,気候市民会議を脱炭素社会の構築に向けた意思決定プロセスの中にいかに位置づけ,結果を実質的に活用していくかといった面で,難しさも明らかになりつつある。こうした問題に対処しつつ,気候市民会議を脱炭素社会の構築に生かすには,無作為選出型の市民参加と熟議の方法をより恒常的な形で制度化したり,行政機関から独立した中立の立場で企画運営を担うことができる専門家集団を確保,育成したりすることも課題となる。

  • 山口 臨太郎
    2022 年27 巻2 号 p. 155-160
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2024/06/07
    ジャーナル フリー

     炭素の社会的費用(SCC)は,追加的に排出された1 t のCO2 が社会全体に与える被害,言い換えるとCO2 削減の便益を表す。SCC の推計値には,気温上昇と被害との関係,異なる世代間に重みづけを与える割引率が大きく影響する。SCC は,政治に翻弄されながらも,排出を経済に内部化するツールとして米国の政策評価に取り入れられてきた。費用便益分析(CBA)がベースにあるSCCに対しては,様々な批判もあり, 特に,ネットゼロ目標と整合的な費用対効果アプローチ(CEA)に基づいた価格付けのほうが望ましいという考え方も有力になりつつある。ネットゼロ目標に向けて,両者のアプローチに対する理解が求められている。

  • 高橋 潔
    2022 年27 巻2 号 p. 161-168
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2024/06/07
    ジャーナル フリー

    脱炭素社会構築への取組の評価に際しては,取組の実施に要する直接的な努力とその効果に加えて,各取組が社会の諸状況に副次的に及ぼす影響や,脱炭素政策の必要性の根拠となる世界及び日本における気候影響についても,理解を深め更新していく必要がある。本稿では,脱炭素な社会と気候影響に強い社会の両立に必要な変革に向けて,緩和と適応の統合的な取組の加速化を促すべく,①脱炭素社会の下での我が国における気候影響,②気候影響が脱炭素政策や対策に及ぼす影響,③気候影響への適応が脱炭素政策や対策に及ぼす影響,④脱炭素社会構築に向けた取組が気候影響に及ぼす効果,を切り分け,気候変動影響及び適応からみた脱炭素社会構築の論点について整理した。また,その整理をふまえ,気候変動影響と脱炭素社会構築の統合的な分析に向けた研究課題について論じた。

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