脱炭素社会への転換に向けた意思決定には,幅広い人びとが参加して,専門的な知 見もバランスよく取り入れつつ熟議するプロセスが求められる。脱炭素社会の構築に向けた議論を市民参加で行うための新たな仕組みとして,2019年から欧州諸国を中心に広がっているのが,参加者を一般から無作為に選出する気候市民会議である。この気候市民会議が日本でも全国に先駆けて札幌市と川崎市で行われ,その経験を踏まえて,2022 年度には埼玉県所沢市と東京都武蔵野市で行政が自ら主催する会議が開かれるに至った。こうした動きは,気候変動対策と民主主義の刷新を同時に進めようとする「気候民主主義」が日本でも芽生えつつあることを示している。一方で,日本での実践を通じて,一般からの無作為選出で多様な参加者をいかに集めるか,参加者に無理のない形で十分な会議時間をいかに確保するか,気候市民会議を脱炭素社会の構築に向けた意思決定プロセスの中にいかに位置づけ,結果を実質的に活用していくかといった面で,難しさも明らかになりつつある。こうした問題に対処しつつ,気候市民会議を脱炭素社会の構築に生かすには,無作為選出型の市民参加と熟議の方法をより恒常的な形で制度化したり,行政機関から独立した中立の立場で企画運営を担うことができる専門家集団を確保,育成したりすることも課題となる。
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