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三輪 誠
2023 年27 巻3 号 p.
175-182
発行日: 2023/03/15
公開日: 2024/06/07
ジャーナル
フリー
埼玉県は,夏季の光化学オキシダント(OX)濃度が高くなりやすく,光化学スモッグ注意報の発令件数も全国トップクラスである。そのため,光化学OX の主成分であるO3(オゾン)による植物被害が顕在化している。この状況を受けて,埼玉県環境科学国際センターでは,2005 年から2021 年に至るまで,県民にオゾンによる植物被害について周知するとともに,県内での被害実態を面的に広く把握することを目的として,オゾンの指標植物であるアサガオを用いた植物被害調査を,毎年7 月末に県民と協働で実施してきた。その結果,調査を開始した当初の頃に比べて最近では,県内のオゾン被害が改善されてきている傾向がうかがえた。本稿では,この調査について概説するとともに,埼玉県内におけるオゾンによる植物被害の実態について,アサガオ被害調査の結果と大気中の光化学OX(主成分はオゾン)の濃度に基づいて報告する。
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武田 麻由子, 丸山 朋見, 青野 光子
2023 年27 巻3 号 p.
183-190
発行日: 2023/03/15
公開日: 2024/06/07
ジャーナル
フリー
神奈川県北西部に位置する丹沢山地において衰退が顕著となっている日本ブナについて,効果的な再生施策の実施のため,ブナが受けているストレスを評価することを目的に,ブナ葉を用いた遺伝子発現解析手法を検討した。酸化ストレス及び水ストレス(土壌乾燥化)を曝露した日本ブナの葉を用いて遺伝子発現解析を実施し,遺伝子発現の差異について検討した。酸化ストレスにより活性化される活性酸素消去系,エチレン生合成系及びエチレン応答について,水ストレスでは一部を除き,これらの遺伝子の発現量は上昇しなかった。水ストレスにより活性化される遺伝子群について,ブナ以外の植物の遺伝子配列から相同性解析を実施した。その結果,ABA(アブシジン酸)非依存性経路に係るDREB2F の特異的primer セットの作成に成功し,水ストレスで発現量が上昇していることを明らかにした。
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田中 仁志
2023 年27 巻3 号 p.
191-198
発行日: 2023/03/15
公開日: 2024/06/07
ジャーナル
フリー
河川等の公共用水中には,生物に有害性を有する様々な未規制物質が存在すると考えられるが,それら全てを把握するのは困難が伴う。水中に存在する様々な物質を対象にした生物影響を総合的に評価する手法として生物応答試験(バイオアッセイ)がある。平時のみならず,化学物質の流出事故等の緊急時に活用するなど,公共用水管理に有用と考えられる。自治体の環境行政を科学的見地から支援する役割を担っている地方環境研究所(地環研)におけるバイオアッセイの取組を振り返ると,生物への影響が懸念された内分泌攪乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)問題の2000 年頃に続き,生物応答試験を用いた排水の評価手法(いわゆる日本版WET)とその活用の手引きを国が取りまとめた2019 年頃が,取組気運の高まりを迎えた時期に当たるといえる。本稿では,これまでの地環研が取り組んだバイオアッセイの結果を整理すると共に,現在,国立環境研究所第Ⅱ型共同研究の制度を活用し,公共用水の影響評価や管理へのバイオアッセイの導入に向けた全国の地環研による共同研究とそこから見えてきた導入への課題について報告する。
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李 政勲, 児玉 圭太, 堀口 敏宏
2023 年27 巻3 号 p.
199-204
発行日: 2023/03/15
公開日: 2024/06/07
ジャーナル
フリー
東京湾産マコガレイの稚魚期における耳石礫石縁辺部の日輪形成を室内実験と東京湾における野外ケージ実験により検証した。両実験では人工孵化で得られた生後4 か月の稚魚を用い,水温約18℃において7 日間の実験を行った。室内実験では給餌を行う対照区と無給餌の飢餓区を設けた。実験の開始前と終了後にアリザリンコンプレクソン(ALC)により礫石縁辺部の蛍光標識を行い,標識間の輪紋数を計数した。実験終了後の飢餓区における平均体長と平均体重は,対照区及び野外ケージ実験区より有意に低かった。また,実験開始前後のALC 標識間の平均輪紋数は,飢餓区では実験期間の経過日数7 より有意に低かったが,対照区及び野外ケージ実験区では有意差は認められなかった。これらの結果より,飢餓状態においては体成長および礫石の輪紋形成がともに停滞するが,摂餌可能な環境条件で飢餓状態にない個体においては礫石縁辺部に一日あたり一本の日周輪が形成されることが明らかとなった。
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牧 秀明, 金谷 弦, 佐々木 久雄, 二宮 勝幸, 柏木 宣久, 飯村 晃, 小田 新一郎, 横山 智子
2023 年27 巻3 号 p.
205-212
発行日: 2023/03/15
公開日: 2024/06/07
ジャーナル
フリー
沿岸海域における公共用水域水質測定データの活用と,水質環境基準生活環境項目に関連する未測定項目の補完的測定を行い,浅海域における水質形成要因解明を目的として地方環境研究機関と調査研究を行ってきた。公共用水域水質測定データの活用では,ダミー変数を用いた重回帰分析により,1980 年代から2010 年代までの約30年間,毎月測定されてきた海水温の長期変動トレンドの評価を行ったところ,多くの地点で有意な上昇傾向が確認された。水質環境基準生活環境項目に追加された底層溶存酸素量(DO)の多項目水質計による現場海中での直接測定を行い,外海に面して閉鎖性の低い一部の湾においても,あるいは冬季にも貧酸素水塊が発生していることを確認した。化学的酸素要求量(COD)の関連項目として,溶存性・懸濁性有機炭素 (DOC・POC),クロロフィルa 等の補完的測定を行ったところ,COD とPOC の主成分はDOC と植物プランクトンにより,それぞれ構成されていることが示され,公共用水域(海域)におけるCOD の評価上,陸起源のCOD 負荷よりも,海域における内部生産による有機炭素生成に着目し管理していく必要性が有ると考えられた。
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堀井 勇一, 櫻井 健郎, 今泉 圭隆, 黒田 啓介, 大塚 宜寿, 西野 貴裕
2023 年27 巻3 号 p.
213-222
発行日: 2023/03/15
公開日: 2024/06/07
ジャーナル
フリー
シロキサン類の一部は,難分解性,生物蓄積性,及び生態毒性を有すると懸念されるが,国内におけるシロキサン類の環境濃度分布,環境排出量,及び環境挙動に関する情報は極めて少ない。本稿では,当該化学物質の高負荷量地域である東京湾流域を対象に実施してきた,実測,排出源・排出量推定,及び多媒体モデルの多角的なアプローチによる研究を紹介する。実測調査では,水質,底質,大気等の多媒体についてシロキサン類の分析法を検討した。水質分析法については,その国際規格化を実現した。東京湾流域の河川水,河川底質,および大気中濃度の測定から,国内における汚染状況を初めて明らかにした。また,下水処理場の詳細モニタリングでは,下水処理場におけるシロキサン類のマスバランス,除去効率,公共用水域への排出量推定等の排出源データを整備した。シロキサン類の排出源解析では,大気濃度データに非負値行列因子分解を適用し,排出源の種類及びその寄与率を推定した。モデル解析では,地理的分解能を有する多媒体環境動態モデルにより,各媒体中のシロキサン類濃度を予測した。さらに,排出を含めたモデル予測結果の確からしさを確認するために,実測値との比較を行った。
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木戸 瑞佳, 万尾 和恵, 袖野 新, 藤島 裕典, 清水 厚
2023 年27 巻3 号 p.
223-228
発行日: 2023/03/15
公開日: 2024/06/07
ジャーナル
フリー
高所山岳を利用した大気観測は,自由大気中のエアロゾルの観測に適していると考えられる。富山県では,自由大気の大気汚染物質の動態や越境汚染の寄与を明らかにするために,北アルプスの立山室堂(標高2,450 m)で大気観測を実施しており,2013 年からは,微小粒子状物質(PM2.5)の質量濃度や化学成分の測定を行っている。 本稿では,2018 年及び2019 年の春季に立山室堂で得られたPM2.5 質量濃度,水溶性イオン成分及び炭素成分の測定結果や,ライダーの観測結果を用いて黄砂など越境汚染の影響を検討した結果について紹介する。
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森 育子, 清水 厚, 西村 理恵, 中戸 靖子
2023 年27 巻3 号 p.
229-234
発行日: 2023/03/15
公開日: 2024/06/07
ジャーナル
フリー
ライダーで得られた黄砂消散係数を用いて,2019 年秋の大阪府の黄砂現象期間を抽出した。抽出にあたっての黄砂消散係数の閾値は,気象庁黄砂情報との比較により決定した0.056(km-1)を採用した。2019 年10 月30 日12 時から31 日15 時までの黄砂消散係数の3 時間平均値は閾値以上であり,この期間をライダー黄砂現象時(以下,黄砂時),黄砂消散係数が閾値未満であった10 月21 日0 時から10 月29 日3 時までをライダー黄砂現象前(以下,黄砂前)とした。黄砂時と黄砂前の国設大阪局に設置された微小粒子状物質(PM2.5)成分自動測定器(ACSA-14)による成分測定結果を比較した。黄砂時の微小粒子状物質(PMf)濃度・粗大粒子状物質(PMc)濃度及びそれらに含まれる硝酸イオン・硫酸イオン・水溶性有機化合物の平均濃度は,黄砂前の平均濃度より高かった。それぞれの項目の平均濃度の黄砂前に対する黄砂時の比は,PMf や同粒子に含まれる成分の場合は3.5 程度であったのに対し,PMc や同粒子に含まれる成分の場合は4〜12 倍程度と大きかった。酸性度については,PMf の平均酸性度は黄砂時と黄砂前とで大差はなかった。一方,PMc の平均酸性度は,黄砂時の方が黄砂前より低かった。黄砂時のPMc 濃度及びPMc 中の硝酸イオン・硫酸イオン・水溶性有機化合物濃度は,ライダーの黄砂消散係数の上昇と同時に上昇し,同調的に変化した。
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西野 貴裕, 加藤 みか, 宮沢 佳隆, 飯田 有香, 東條 俊樹, 浅川 大地, 大方 正倫, 松村 千里, 羽賀 雄紀, 坂本 和暢, ...
2023 年27 巻3 号 p.
235-242
発行日: 2023/03/15
公開日: 2024/06/07
ジャーナル
フリー
日常生活で使用する医薬品などの生活由来化学物質に関して,国内の水環境における実態調査を進めるとともに,水生生物を利用した毒性試験から得られた毒性情報をもとに生態リスク評価を行った。さらに,調査を夏季と冬季の2 季節にわたって行うことで濃度の季節変動も把握した。公共用水域では,抗生物質のクラリスロマイシンや14-ヒドロキシクラリスロマイシン,エリスロマイシンといった抗生物質と,鎮痒剤のクロタミトンに関して,水生生物に対する予測無影響濃度(PNEC)を超える濃度で検出される地点があった。濃度の季節変動に関しては,クラリスロマイシンなどの抗生物質,フェキソフェナジン等の抗ヒスタミン剤は冬期に,昆虫忌避剤のN,N -ジエチル-m -トルアミドは,夏期に濃度が高くなる傾向があった。
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加藤 みか, 西野 貴裕, 宮沢 佳隆, 飯田 有香, 東條 俊樹, 浅川 大地, 市原 真紀子, 大方 正倫, 松村 千里, 羽賀 雄紀, ...
2023 年27 巻3 号 p.
243-252
発行日: 2023/03/15
公開日: 2024/06/07
ジャーナル
フリー
幅広い製品に使用されているリン酸エステル系難燃剤(PFRs)について,複数の地方環境研究所との共同研究等により,国内水環境における実態調査を実施した。5 都市(東京都,名古屋市,大阪市,兵庫県,福岡県)33 河川等の公共用水域水質において,8 種類のPFRs が検出下限値未満~1,400 ng/L で広範囲に検出された。全体的に含塩素のリン酸トリス(2-クロロエチル)(TCEP),リン酸トリス(2-クロロイソプロピル)(TCPP),リン酸トリス(2-ブトキシエチル)(TBOEP)の3 種の濃度が高く,特に下水処理水の影響を受けやすい地点等において,高頻度で検出される傾向が見られた。また,リン酸トリス(1,3-ジクロロ-2-プロピル)(TDCPP)については,予測無影響濃度(PNEC)を超える地点が確認されるなど,国内公共用水域水質におけるPFRs の濃度レベルや組成等の汚染実態を明らかにした。
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鈴木 剛, 中尾 賢志, 比嘉 元紀, 谷脇 龍, 伊藤 彰, 宇野 悠介, 佐藤 敬士, 宇智田 奈津代, 田中 厚資, 秋田 耕佑, 藤 ...
2023 年27 巻3 号 p.
253-264
発行日: 2023/03/15
公開日: 2024/06/07
ジャーナル
フリー
プラスチックごみによる海洋汚染は,国際社会で対処すべき喫緊の課題となっている。河川は,海洋への主要な流出経路と考えられており,河川プラスチックごみの海洋流出の実態把握,排出抑制対策やその効果の検証は,海洋プラスチックごみ問題の解決に資する重要な課題と位置付けられる。国立環境研究所では,海洋プラスチックごみの削減に貢献することを目的として,地方環境研究機関との第Ⅱ型共同研究「河川プラスチックごみの排出実態把握と排出抑制対策に資する研究(2021~2023 年度)」を開始した。本稿では,本研究の実施背景,研究体制と実施概要を説明し,実施内容として,環境省「河川マイクロプラスチック調査ガイドライン」に基づいて実施した調査方法の共通化の取組事例をまとめると共に,共通化手法による河川マイクロプラスチックの排出実態調査の結果と排出抑制対策に向けた試行的考察を紹介する。また,研究遂行を通じて得られた課題もとりまとめた。
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石垣 智基, Noppharit SUTTHASIL, 北村 洋樹, 矢吹 芳教, 田中 宏和, 成岡 朋弘, 渡辺 洋一, 長森 正尚, ...
2023 年27 巻3 号 p.
265-272
発行日: 2023/03/15
公開日: 2024/06/07
ジャーナル
フリー
産業廃棄物の不適正な処分が行われた最終処分場において,有害性の高い特定悪臭物質である硫化水素を含むガス成分の発生挙動を調査した。硫化水素の発生源となる硫酸根を含む廃棄物の埋設状況に関わらず,地形に依存した内部水の移動と,溶存する有機物濃度の影響を受けて,硫化水素の発生場所は最終処分場の堰堤及び地山で挟まれたエリアに偏在していた。同エリアでは硫化水素の活発な発生に伴って,メタン生成が競合的に阻害されていることも示唆された。以上のことから,作業安全確保の点でも,モニタリングにおける地点の選定の上でも,保有水の水質や地下ガス濃度等の複合的な指標を考慮に入れた慎重な調査計画の検討が必要であることが示された。
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