本研究では, 雌雄成体のSprague-Dawley系ラットを被験体とし, 円形オープンフィールド (直径100cm) における物体探索行動に対するMK-801の効果と性差を検討した。物体探索行動の指標は, オープンフィールド内の中央部 (直径34cm) 内に四肢が入っている状態をCZ内探索とし, CZ内探索の総時間と1回あたりのCZ内探索時間の2項目とした。さらに, オープンフィールド行動も測定した。オープンフイールド行動の指標は, locomotion, lean-ing, rearing, face-washing, groomingの総時間, defecationの個数の6項目とした。実験1は予備的実験であり, 薬物処置を行わず3日間にわたり, 第1日にオープンフィールドにおける行動観察を行い, 第2日にCZ内に対象物を置き, 物体探索行動が見られるかどうか, 第3日に対象物を取り除くことにより行動的変化が見られるかどうかを検討した。実験1の結果, オープンフィールド行動ではlocomotionは第1日が最も多く, leaningは第3日が多かった。その他の行動には変化が見られなかった。しかし, 物体探索行動の指標であるCZ内探索総時間と1回あたりのCZ内探索時間は, 第2日に増加し, 第3日にもその傾向が持続した。また, すべての行動に性差は見られなかった。実験2では, 第2日にMK-801 (0.05, 0.1, 0.2mg/kg) を腹腔内投与することにより, 投与用量に依存した物体探索行動への影響およびその性差が見られるかどうかを検討した。実験2の結果, 第2日の結果より, オープンフィールド行動では, 雄では0.2mg/kg投与で, 雌では0.05mg/kg以上の投与でlocomotionが増加した。また, leaning, face-washingは雌雄ともsaline群以外の投与用量群で減少し, groomingは0.2mg/kg群で減少した。物体探索行動については, 雄では, CZ内探索総時間と1回あたりのCZ内探索時間は, 0.1mg/kg群と0.2mg/kg群はsaline群に比べて少なかった。雌では0.05mg/kg, 0.1mg/kg, 0.2mg/kg群はsaline群に比べて減少した。また, CZ内探索総時間と1回あたりのCZ内探索時間, grooming以外のオープンフィールド行動において明白な性差が示され, 雌ラットにおいては, 雄では影響のない用量 (0.05mg/kg) で過活動性が, また雄では過活動性を示す用量 (0.2mg/kg) で活動性の低下がみられた。雄では, CZ内探索総時間と1回あたりのCZ内探索時間が減少するのは0.1mg/kg以上の投与であり, これらの用量ではdefecation以外のオープンフイールド行動にも影響が見られた。一方, 雌では, 0.05mg/kgの用量投与でCZ内探索総時間と1回あたりのCZ内探索時間が減少し, この用量ではdefeca-tion以外のすべてのオープンフィールド行動にも影響がみられた。特にlocomotion, rearing, leaning, およびCZ内探索総時間と1回あたりのCZ内探索時間については, 第3日にもその影響が持続した。実験の結果から, 雄では0.1mg/kg以上, また, 雌では0.05mg/kg以上の投与用量で, 物体探索行動に影響があり, 雌ではMK-801への感受性が高く, その影響の持続時間も長いことが示唆される。
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