同一業界でも企業業績には大きな差が生じ得る。不確実な環境下で企業業績を長期的に高水準に維持し、存続確率を高めるには、効果的なマネジメント・コントロールの設計と運用が不可欠である。「知的資産」の形成、運用の担い手となるのは、組織成員であり、その行動に影響を与えるのはマネジメント・コントロールだからである。
本稿では、マネジメント・コントロール論の発展動向に注目し、知的資産との関連でこれまでの論点を整理し、長期的な企業業績の確保のためにどのような問題が重要であり、いかにアプローチすべきかについて検討する。重要なのは、以下の3 点である。
第1 に、概念が提唱された当初、マネジメント・コントロールは会計的なコントロール手段を想定しており、業績管理会計とほぼ同義に用いられることもあった。経営問題の複雑化にともない、会計的なコントロール手段以外のコントロール手段も包含し、コントロール手段のパッケージ(ポートフォリオ)としてマネジメント・コントロールを考える立場が見られるようになった。多様なコントロール手段を組み合わせて用いる必要が生じているが、その点についての研究はまだ十分ではない。
第2 に、マネジメント・コントロールに期待される役割が所与の経営目標を達成するという、比較的単純なものから、不確実な環境を前提に事後的な最適解を模索する、より複雑な機能に変化しつつある。単純な目標達成の手段としてのマネジメント・コントロールだけではなく、インターラクティブ・コントロール、イネーブリング・コントロールなど、探索型のコントロールが概念化された。知的資産の形成に有用なのは、探索型のコントロールであり、それを可能にするのは、コントロール・パッケージという視点が重要である。
第3 に、企業経営には、短期的な最適化だけではなく、環境変動への対応も課題となる。組織変化にいかに対応すべきかが重要な問題となった。コントロール・パッケージの中でも、組織文化は、変化の際に最も更新が難しく、時間や不確実性を覚悟しなければならない。
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