近年,「ビッグデータの活用」や「AI(人工知能)の活用」が,企業におけるイノベーションを加速し,また,未来の企業の存続をも大きく左右する鍵であると言われており,こうしたテーマでの論稿やセミナーなどがここ数年わが国でも花盛りである。こうした巷における新しいテーマについて知的資産経営という観点からみたとき,「ビッグデータ」それ自体が企業経営において,特にバランスシート上における無形資産としてどれだけの価値を有するのかと言えば,必ずしも物理的な記録としてのデータ量が多ければ多いほど価値が大きいということではなく,「ビッグデータ」に命を吹き込んでいくIT(情報技術)の利用の仕方の巧拙に依存しているということがある。このため,バズワードとさえ評されることのある「ビッグデータ」や「AI」それぞれについて,企業がいわば「受け身」の議論をするのは得策とは言えない。むしろ,客体としての「データ」と手段としての「情報技術」,さらにはデータや技術を利用する主体としての経営者(「人間」)をセットとして考えることが必要ではないか。また,物理的なデータと,有用性の観点を含んでいる情報とを概念上,区別することが有用ではないかと思われる。このようにして,最終目的である効果的かつ効率的な企業経営に向けられた提言が可能となり,企業における知的資産経営の状況,データから新たな価値を創造する実態について,ステークホルダーからよりよい理解を得ることにもつながると考えられる。本稿では,知的資産経営の研究において,従来から行われてきた会計学を中心とした静態的な議論を基礎としつつ,そこに最近特に脚光を浴びているデータサイエンスという新しい学問分野からの知見を取り入れ,企業経営に引きつけ動態的に検討していく意義について検討する。
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