日本知的資産経営学会誌
Online ISSN : 2758-7355
Print ISSN : 2758-6936
2017 巻, 3 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
  • 内田 恭彦
    2017 年 2017 巻 3 号 p. 7-21
    発行日: 2017/09/28
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル フリー
    本研究は地方の中小企業(地域企業)が進出を図る際に,関係資産を活用せざるを得ないが,その際成功するための地域企業の特徴,関係資産企業の特徴,関係調整の方法などを明らかにすることを目的としている。関係資産は定義上企業外部のもので,しかも基本的には所有していないものであり,その多様性と制御困難性を有するものである。したがって関係資産のマネジメントの理解は理論的にも実践的にも重要な問題である。従来知的資産経営研究においては関係資産については,情報機能など企業にとってプラスの側面が強調されてきたが,組織間関係論の資源依存パースペクティブによると,他企業などに過度に資源依存した場合においては,企業経営においてマイナス効果をもたらすことが理論的・実証的に報告されている。そこで本研究では山口県内に本社のある,もともとは地方の小さな事業体であったが,関係資産を活用して地域外進出に成功し,発展した4事業体のケースを分析し,関係資産マネジメント理論の構築に向けた貢献を企図した。結果は地域外進出する地域企業の特徴として進出先エリアにおける競合の製品に対して高品質で差異性が構築されていることが前提条件であること,資源依存パースペクティブから演繹されるように資源依存関係が台頭になるような関係資産企業を選択すること,また関係資産企業との資源依存関係を強化するには相互特殊投資が,また資源依存関係がアンバランスな際の組織間関係の調整方法としてはメディア活用,関係解消という選択肢が見出された。最後に考察として理論的含意および本研究の限界などが示されている。
  • 質的比較分析(QCA)に基づく先行要因の探求
    服部 泰宏
    2017 年 2017 巻 3 号 p. 22-38
    発行日: 2017/09/28
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,2016年卒業の新卒者を対象とした採用活動(2016年卒採用)において発生した種々の革新の中でとりわけ発生件数が多かった「多様な入口の設定」に注目して,こうした革新が,どのような企業において,なぜ同時発生的に出現したのか,ということを実証的に明らかにすることである。人的資源の多様性をめぐって,これまで人材マネジメントの領域では,異なる雇用区分にある多様な従業員をどのようにマネジメントするかという問題が,ダイバーシティの領域では同一の雇用区分内で社員が多様化することの影響と多様性のマネジメントの問題が,それぞれ議論されてきた。対して採用研究においては,多様性の問題がきわめて限定的に扱われているに過ぎず,総じて,日本企業で起こりつつある「多様な入り口の設定」に関して,わかっていることは少ない。そこで本研究では,Ragin(1987)によって提唱された質的比較分析(qualitative comparative analysis :QCA)を用いて,こうした問題の検討を行った。分析の結果,こうした革新は,採用活動への危機意識や不安や業績の低下,急成長といった単一の原因条件だけではそれが起らないこと,革新はむしろ,こうした初期条件の上に,企業そのものの急成長や業績低下といった変化が重なったことで,多様な人的資源を取り込むことへの要求が組織にとって無視できないほど大きくなった結果として起こったということが確認された。
  • 姚 俊
    2017 年 2017 巻 3 号 p. 39-50
    発行日: 2017/09/28
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル フリー
    人材は重要な経済的資源(資本)であり,人材リスクは現在の日本企業にとって重要な課題となっている。人的資本をどのように確保・強化・運用して企業の持続的価値創出に結びつけていくかについて,会計の視点からその対策を論じるのが「人的資本会計」という領域である。本稿は人的資本会計の発展,人的資本に関する会計制度,および実務の発展を考察し,持続的成長と価値創出に向けての知的資本経営と統合報告が提唱されている現在,人的資本会計の新たな課題を提示する。
  • データサイエンスからの視点
    山口 峰男
    2017 年 2017 巻 3 号 p. 51-59
    発行日: 2017/09/28
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル フリー
    近年,「ビッグデータの活用」や「AI(人工知能)の活用」が,企業におけるイノベーションを加速し,また,未来の企業の存続をも大きく左右する鍵であると言われており,こうしたテーマでの論稿やセミナーなどがここ数年わが国でも花盛りである。こうした巷における新しいテーマについて知的資産経営という観点からみたとき,「ビッグデータ」それ自体が企業経営において,特にバランスシート上における無形資産としてどれだけの価値を有するのかと言えば,必ずしも物理的な記録としてのデータ量が多ければ多いほど価値が大きいということではなく,「ビッグデータ」に命を吹き込んでいくIT(情報技術)の利用の仕方の巧拙に依存しているということがある。このため,バズワードとさえ評されることのある「ビッグデータ」や「AI」それぞれについて,企業がいわば「受け身」の議論をするのは得策とは言えない。むしろ,客体としての「データ」と手段としての「情報技術」,さらにはデータや技術を利用する主体としての経営者(「人間」)をセットとして考えることが必要ではないか。また,物理的なデータと,有用性の観点を含んでいる情報とを概念上,区別することが有用ではないかと思われる。このようにして,最終目的である効果的かつ効率的な企業経営に向けられた提言が可能となり,企業における知的資産経営の状況,データから新たな価値を創造する実態について,ステークホルダーからよりよい理解を得ることにもつながると考えられる。本稿では,知的資産経営の研究において,従来から行われてきた会計学を中心とした静態的な議論を基礎としつつ,そこに最近特に脚光を浴びているデータサイエンスという新しい学問分野からの知見を取り入れ,企業経営に引きつけ動態的に検討していく意義について検討する。
feedback
Top