本論文はエーザイの事例をとりあげ,インタンジブルズによる価値創造とコミュニケーションとの関係性を検討したものである。本論文の発見事項は次の3 点である。
第1 に,価値創造プロセスを4 つのタイプに分類した点である。先行研究から創造される企業価値には株主価値をステークホルダー価値にあり,企業価値と資産の関係には構成要素を記述するタイプとドライバーを記述するタイプがあることが分かった。
第2 に,リスクに関するマテリアリティの考え方を明らかにした点である。同社では,発生可能性ではなく,マテリアリティを長期投資家にとっての関心で捉えている。つまり,発生可能性が高く価値創造に影響を及ぼすリスクが明らかにされていない。そこで,Kaplan(2009)のリスク・スコアカードを用いてリスクの優先順位を付けることを提案した。また,優先順位の高いリスクについては,南雲(2006)のCOSO ERM 統合型BSCのように,リスク管理を戦略マップに取り込むことを提案した。
第3 に統合報告は,戦略企画室といった戦略を策定する組織が中心となって作成すべきことを明らかにしたことである。統合報告は,価値創造や戦略に関する情報からなる。したがって,戦略を策定する戦略企画室が主導することで,戦略に沿った一貫した情報をステークホルダーに提供することができる。さらに,価値創造プロセスを戦略マップで作成している場合,戦略企画室が主導になることで戦略管理にも有用な戦略マップになる可能性がある。
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