順天堂醫事雑誌
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60 巻, Suppl.2 号
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目次
都民公開講座:最新のワクチン事情
  • 過去,現在,そして未来
    久田 研
    2014 年 60 巻 Suppl.2 号 p. s35-s41
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/02/14
    ジャーナル フリー
    HibやPCVの導入にはじまり,わが国の小児における予防接種政策は,停滞期を乗り越えワクチンギャップが解消されつつあります.予防接種法も一部改定され,基本方針に “予防接種で防げる疾病は予防する” という文言が掲げられました.HibやPCVの導入は,海外と同様に侵襲性感染症を減少させました.水痘ワクチンも定期接種化が予定され,その減少が期待されます.しかしながら,昨年度流行した風疹のように,過去の予防接種体制が,先天性風疹症候群の増加という残念な結果につながることもあります.われわれは,個々の疾病予防のみならず,集団免疫による流行抑制の重要性についても認識を深め,予防接種政策をよりよいものにしていく責務があります.ワクチンの定期接種化,サーベイランス体制の確立,定期接種の年齢制限の撤廃など,まだまだ解決すべき問題もありますが,今後もワクチンギャップの解消に期待が寄せられています.
  • 山本 祐華
    2014 年 60 巻 Suppl.2 号 p. s42-s47
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/02/14
    ジャーナル フリー
    WHOにおけるワクチン関連疾患は「preventable disease=予防可能な疾患」と表記されている.しかし風疹はワクチン関連疾患に分類されるものの,本邦では2012年に大流行し,2013年の風疹感染者は14,357人にまで上り,先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome;CRS)を合併した児も32人出生した.日本における風疹ワクチンの歴史的背景が今回の大流行にかかわっている.
    風疹ワクチンの接種は1976年より定期接種として開始され,当初は中学生女子に限定されていた.1989年より男女に三種混合ワクチン(MMR)の接種が始まったものの,無菌性髄膜炎の発生により1993年にいったん中止された.1995年以降は男女ともに個別接種がされたが,ワクチン接種をすり抜けた20~40歳代の成人が風疹抗体をもたず,今回の大流行に大きく影響したと考えられる.妊娠初期に風疹に罹患した場合,かなり高率で先天性白内障,難聴,心奇形をもつCRSを発症するため,ワクチンによる抗体確保することでの集団免疫の重要性を確認する.
    B型肝炎は輸血後肝炎がほぼ消滅した後,母児垂直感染をいかに予防するかが注目された.2013年にB型肝炎ワクチンと免疫グロブリンの接種方法が変更され,より効果的な母児感染予防を試みている.
    インフルエンザは妊娠中に接種するワクチンとして最大のものといえる.妊娠全期間を通じて有益性投与を行うことができ,免疫寛容にある妊婦におけるインフルエンザワクチンの接種の重要性は新型インフルエンザ流行の際にも痛感された.
    最後に現在開発中のワクチンとしてサイトメガロウイルス(cytomegalovirus;CMV)ワクチンがある.妊娠中に初感染を起こすと,児に難聴,精神発達障害などをきたす先天性CMV感染症を起こす.以前はCMV抗体の保有率は90%程であったものの,現在は衛生的な改善で抗体保有率が65%にまで低下しており,妊娠中の初感染のリスクは高い.現在ワクチンは臨床治験第2段階であり,臨床応用にはまだ時間を要する.周産期にかかわるワクチンの歴史と現在の状況を確認し,今後の感染予防に役立てていく.
  • がんペプチドワクチン療法を中心に
    加藤 順子, 渡邊 純夫
    2014 年 60 巻 Suppl.2 号 p. s48-s52
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/02/14
    ジャーナル フリー
    悪性腫瘍に対する免疫療法は,外科治療,化学療法,放射線療法に次ぐ第4のがん治療法として注目されています.
    がんワクチンは,すでにがんが体内に存在している状態に対し,免疫力を高めてそのがん細胞を攻撃する治療法であり,細菌やウイルスなどの感染症を予防する一般的なワクチンとは異なります.また,がんワクチンは,がん細胞に対して免疫機構を介した間接作用によって効果を発揮するため,直接効果を発揮する抗がん剤や分子標的治療薬などの従来の治療法と比べ,治療効果が現れるまでに一定の時間を要しますが,正常細胞は攻撃しないことから副作用が少なく,また投与が簡便であることから,QOL(quality of life)を損なわず行うことができる治療法として期待されています.
    1991年に悪性黒色腫に対する腫瘍拒絶抗原ペプチドを用いた免疫治療が報告されてから,様々な腫瘍抗原やその抗原遺伝子を利用した抗腫瘍免疫療法が検討されるようになりました.2010年には,前立腺がんに対するがんワクチン製剤であるsipuleucel-T(Provenge®)が米国で承認され,世界で初めて認められたがんワクチン療法として実臨床の場に登場し,それにより承認に向け多数のがんワクチンの臨床試験が進行しており,開発競争が激しくなっています.
    日本で最も臨床試験が進行しているのが,がんペプチドワクチン療法です.がんペプチドワクチン療法は,HLA拘束性ペプチドを投与することにより,がん細胞に特異的な細胞障害性T細胞(CTL)を活性化させて免疫応答を増強し,そのがん細胞を攻撃して抗腫瘍効果を示す方法です.膵臓がんや大腸がんなどがん種によって効果のあるペプチドワクチンの種類が違っており,現在,様々なペプチドワクチンを組み合わせたカクテル療法が各施設で臨床試験として行われています.がんペプチドワクチン療法の効果や副作用,現状について消化器がんを中心にお話しします.
  • 横山 和正, 服部 信孝
    2014 年 60 巻 Suppl.2 号 p. s53-s59
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/02/14
    ジャーナル フリー
    ワクチンというと皆さんはエドワードジェンナーについて学生時代に学んだかもしれません.当時経験的に知られていたのは,牛痘にかかったヒトは天然痘にかからないですむ,もしくは天然痘にかかったとしても死に至らず天然痘感染による症状が軽くすんでいたことから治療への応用が検討されました.他の医師が行った実験治療では多くの死亡事故もあったようです.それを踏まえてジェンナーが行ったのは,天然痘予防のためのウシ天然痘(牛痘)のヒトへの接種実験でした.現在ワクチンという呼び名で一般化したこの試みは見事に成功し数多くの人命が救われ,184年後の1980年5月,WHO(世界保健機関)は天然痘の根絶を宣言しました.
    このようにワクチンは正しく使用すれば効果も高く,社会に貢献するのはあきらかですが例外もあります.本日参加された皆さんはワクチンの適応,時期,その限界や副作用についてもよく知っておく必要があると思います.繰り返しになりますが,ワクチンに限らず万人に対して同じ作用・効果を起こす薬剤は存在しませんし,個々のワクチン接種時の免疫状態によって効果や副作用が変化する可能性もあるのです.またご自身,家族,友人,会社,村,市,地方,県,国,世界と接種対象のスケールアップに伴いワクチンの主たる目的も変わってきます.
    ワクチンはもともと個人の体内に存在していない異物(非自己)を,皮下,筋肉注射,静脈注射,経鼻,経口ルートから投与し,個人のもつ免疫能を強制的に賦活させるものです.よって,場合によっては死に至るような重篤な副作用を起こす可能性が常にあります.
    今回の公開講座は広くワクチンの特集であり,他の演者からすでにそれぞれの分野における最新の報告が行われてきたかと思いますが,私の講演ではインフルエンザワクチンにより起こりうる神経系の副作用についてまずお話をします.また,最近話題になっている子宮頸癌ワクチンと神経系への副作用,さらには私の主たる研究である多発性硬化症のワクチンを利用した免疫治療が歴史的にどのように行われてきたかについて述べ,日本でも増加しているアルツハイマー病に対してのワクチンによる免疫治療とその誤算,最後に今後日本でもますます増えるであろう様々なワクチンにどう向き合うかの基本姿勢についてまとめて述べます.自己を病気から守るためには非自己である感染のみならず,自己に対しての過剰反応である免疫現象を理解することが必要不可欠なのです.
症例検討
  • 吉田 範敏, 大橋 直樹, 森 義之, 丸山 俊朗, 井原 厚, 渡野辺 郁雄, 渡辺 心, 塚田 暁, 清水 秀穂, 三木 猛生
    2014 年 60 巻 Suppl.2 号 p. s60-s64
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/02/14
    ジャーナル フリー
    目的:当院のこれまでの単孔式腹腔鏡下胆囊摘出術(以下,TANKO-LC)を含む腹腔鏡下胆囊摘出術について分析し,TANKO-LCを安全に行うための適応と手技について検討したので報告する.
    対象:2011年2月から2012年7月までの腹腔鏡下胆囊摘出術28例を対象とし,この期間をTANKO-LC導入の初期,中期,後期の3期間にわけて検討した.次に,検討した結果をもとに,その後1年間に施行した腹腔鏡下胆囊摘出術14例において,手術時間,出血量,在院日数から当院のTANKO-LCの適応の正当性の評価を行った.
    結果:手術時間は,導入初期から中期にかけて短縮できたが,症例を選択しなくなった後期では延長し,出血量は多くなっていた.術後在院日数の差はみられなかった.そのためこの間のTANKO-LCで行った全症例を,術前DIC-CT検査で胆囊造影が陽性で炎症の程度が低いと思われた症例と胆囊造影が陰性で炎症の程度が高いと思われた症例にわけて比較したところ陽性例は102.6分,陰性症例は113.7分であり,陰性症例に手術時間の延長がみられた.そのため,その後1年間の腹腔鏡下胆囊摘出術14例に胆囊造影陽性症例にはTANKO-LCを,胆囊造影陰性症例には4孔式腹腔鏡下胆囊摘出術(4孔式LC)を施行した.その結果,TANKO-LC 9例の平均時間は98.9分(4孔式LC 5例は83.0分)となり,TANKO-LCの手術時間が短縮された.
    考察:TANKO-LCは特に大きな手術器具も購入せずに導入可能で,整容性にも優れ,症例を検討して適応を決定すれば,今後の腹腔鏡下胆囊摘出術において有用な術式になりうると考えられた.
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