日本臨床歯科学会雑誌
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最新号
日本臨床歯科学会雑誌
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
  • デジタル機器を用いて
    貞光 謙一郎
    2024 年10 巻1 号 p. 6-21
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2025/08/04
    ジャーナル フリー
    本来の歯科臨床においては,一歯単位の治療ではなく顎口腔系を機能的な一単位として捉え,検査・診断・治療計画立案を行っていく必要がある.1900年代初頭より始まった包括的治療の流れは確立し,臨床では数多くの長期予後経過も認められている. しかしながら,治療結果の良否は術者の経験値に影響される側面も見受けられる.そこで,デジタル機器を用いて患者固有の客観的基準を包括的治療に取り込もうと考えた. 目的:下顎左側臼歯部のブリッジの脱離による咀嚼障害を主訴として来院した38歳女性に対して, デジタル機器を用いて客観的基準に基づく治療を行った. 結論:デジタル機器を用いることにより,より精度の高い包括的治療を進められることが示唆された.
  • 添島 正和
    2024 年10 巻1 号 p. 22-39
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2025/08/04
    ジャーナル フリー
    超高齢化社会に向けて,健康長寿のキーワードは免疫力と基礎代謝のアップであることは間違いなく,歯科診療は患者の心と体の健康維持に役立つものでなければならない.しかしながら,欠損補綴において,入れ歯を使用している人の85.6%が不便だと感じ,一向に医療苦情の例が絶えない.これらの入れ歯の現実をみても,保険・自費にかかわらず高機能快適長寿義歯を提供できる技を身につけることで,元気で健康な高齢者の創出と無駄な医療費の削減になり,社会的に国民から支持される.
  • 髙山 祐輔, 長谷川 幸生, 吉田 茂治, 綿引 淳一
    2024 年10 巻1 号 p. 40-47
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2025/08/04
    ジャーナル フリー
    目的:口腔保湿ジェル,蒸留水を用いて歯面を保湿し,その経時的な色調変化を明らかにする. 方法:被験者は上顎両側中切歯が健康な20名を対象とした.測色装置を用い,口腔保湿ジェル塗布,蒸留水含浸ガーゼで被覆,のそれぞれの条件でベースライン時と5分後,10分後の色調を計測し,CIE L*a*b* を用いて表色を行い,色差ΔE00を算出した. 結果:保湿ジェルを使用したL*a*b*のすべての項目において有意な差を認めた(p<0.05).蒸留水ではa*の計測開始時と10分後の条件以外で有意な差を認めた(p<0.05).ΔL*は保湿ジェルでの5分後,10分後間,蒸留水での5分後,10分後間において有意差は認められなかったが,保湿ジェル群と蒸留水群間では有意な差が認められた(p<0.05).保湿ジェルではΔL*は増加,蒸留水では減少傾向を示した.また,Δa*においても保湿ジェルでの5分後,10分後間,蒸留水での5分後,10分後間において有意差が認められなかったが,保湿ジェル群と蒸留水群間では有意な差が認められた(p<0.05).保湿ジェル,蒸留水ともにΔa*は減少傾向であるが,保湿ジェルの変化がより大きい傾向を認めた.Δb*値の比較では各群間での有意差は認められず(p≧0.05),数値は減少傾向を示した.ΔE00値の比較では各群間での有意差は認められなかった(p≧0.05).結論:上顎中切歯歯面に対し,保湿ジェル,蒸留水を用いて歯の保湿を行った際の5分後,10分後それぞれに色調変化が確認できたが,両条件間で色調変化において有意差は認められなかった.
  • 中山 大蔵, 吉岡 隆知
    2024 年10 巻1 号 p. 48-59
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2025/08/04
    ジャーナル フリー
    目的:日本臨床歯科学会(SJCD)会員にラバーダム(RD)使用状況を調査することで,本学会の治療の質をある一面から検証することとRD使用率を上昇させるための施策を検討することを目的とする. 材料および方法:SJCD歯科医師会員1,338名を対象にアンケートによる調査を実施した.RDの使用状況や過去の教育環境,勤務状況など計19問のアンケートを作成した.調査期間は2022年9月22日~2022年10月20日とした.回収および集計は株式会社クロスマーケティングに委託し匿名性の確保に配慮した. 結果:回答数は449名,回答率は33.6%であった.SJCDにおけるRD使用率は72.8%であった.RDを使用する歯科医師は,自身が必要性を認識していた(80.7%).過去の勤務先でのRD使用状況と現在の使用状況でχ2検定を行った結果,使用する・使用しないともに有意差が認められた. 結論:歯科医師がRDを使用するきっかけには過去の勤務先でのRD使用状況が大きな影響があった.したがって,本学会の使用状況を向上させるためには,その本人に必要性を教育することは重要であるが,一方,自分の行動が日本の歯科医療に大きな影響を与える可能性が高いことを認識してもらう必要性も高い.
  • 綿引 淳一, 和田 明大, 石田 尚子, 上野 博司, 行田 長隆, 榊原 毅, 笹生 宗賢, 長谷川 幸生, 田中 準一, 美島 健二
    2024 年10 巻1 号 p. 60-67
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2025/08/04
    ジャーナル フリー
    目的:フッ素イオン導入法の象牙質知覚過敏症に対する有効性と,ヒト歯根膜線維芽細胞(HPdLF)に対する生体反応の検証. 方法:象牙質切片に対し,異なる導入時間における象牙質切片へのフッ素イオン取り込み量を測定した.さらに,フッ素イオン導入を行った象牙質切片上でHPdLFを培養し,細胞毒性を評価した.また,前向き介入研究により,患者の痛みの軽減効果も評価した. 結果:10分間のフッ素イオン導入は,短時間の導入に比べて有意に取り込み量を増やし,HPdLFの生存率に毒性は認めなかった. 10分の導入は,3分の通常治療に比べて疼痛を有意に軽減させることに効果的で,根面被覆術前の象牙質知覚過敏症の処置としても有用である可能性が示唆された.
  • 上野 博司, 内藤 聡美, 後藤 優, 綿引 淳一
    2024 年10 巻1 号 p. 68-72
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2025/08/04
    ジャーナル フリー
    目的:40歳以上の矯正歯科治療を開始した患者における,上顎前歯部叢生量と歯肉退縮量の関係を明らかにすることを目的に横 断的観察研究を行った. 対象および方法:矯正歯科治療を開始した40歳以上の患者97名を対象に,上顎前歯部叢生量,歯肉厚さ,bleeding on probing (BOP),pocket depth(PD),clinical attachment loss(CAL)を測定した. 結果:歯肉退縮量は上顎前歯部叢生量5mm以上群の平均値±標準偏差は2.06±2.34mm(中央値1mm,四分位偏差1.625mm)で, 5mm未満群は平均値±標準偏差は1.18±1.38mm(中央値1mm,四分位偏差1mm)であり,有意差を認めなかった.上顎前歯 部叢生量と同部位歯肉退縮量におけるspearmanの順位相関係数は0.269であり,わずかな相関が認められた. 結論:今回の結果より,上顎前歯部叢生は,歯周組織の健康に影響を与えることが示唆されたが,歯肉退縮量にわずかな相関を 認めたもののその他に評価項目には相関を認めなかった.
  • 宮本 英欧, 山口 文誉
    2024 年10 巻1 号 p. 74-81
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2025/08/04
    ジャーナル フリー
    近年,上顎結節は自家骨移植のドナーサイトや矯正歯科治療用インプラントアンカーの適応部位として注目されている部位である.上顎結節から骨移植を行う,もしくは矯正歯科治療用インプラントアンカーを安全に埋入するためには,上顎結節の骨形態を詳細に知る必要がある.しかし,人種によってその形態に差異があることが報告されているが,日本人においてその解剖学的形態を詳細に調べた研究はない.本研究の目的は,一般歯科医院に来院した患者を対象に,過去に治療目的で撮影したcone beam computed tomography(CBCT)を用いて日本人の上顎結節の骨形態を明らかにすることである.1施設において,2019年7月22日~2023年7月2日までに撮影した20歳以上の患者(男女)のCBCTを研究対象資料とした.測定した上顎結節80部位(男性27人41部位,女性34人39部位),男性の平均年齢は43.8±12.7歳,女性の平均年齢は43.1±15.2歳であった.上顎結節の頬舌的骨幅は有意差をもって男性のほうが女性よりも大きかった.また,同一患者,同一断面における上顎結節の皮質骨厚みは口蓋側のほうが有意差をもって大きかった.上顎結節の歯冠から根尖側方向への骨高さにおいて一部の計測断面で年齢と軽度な正の相関を認めた.以上より,日本人の上顎結節の解剖学的な骨形態は性別と年齢によって差異があることが示唆され,上顎結節から骨移植を行う,もしくは矯正歯科治療用インプラントアンカーを埋入する場合にはこれらを考慮する必要があると考えられる.
  • 形態的側面と機能的側面から
    秋田 洋季
    2024 年10 巻1 号 p. 82-91
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2025/08/04
    ジャーナル フリー
    目的:顎運動計測装置(JMAnalyser)を用いて,顎運動と咬合面接触の関係を可視化し検証を行うことで,臨床において本装置の有効性を検討した. 材料と方法:咬合崩壊をともなう患者に対し顎運動計測装置を用いて顎運動を計測し,口腔内スキャナーから得たSTLデータを取り込み,機能的な顎運動を画像で可視化することで検査から再評価までを検証した. 考察:デジタル機器の発展により,より細かな下顎運動を捉えることが可能となった.そして得られたデータ分析を行うことにより,プロビジョナルレストレーション装着時から最終補綴装置装着時および,補綴装置装着後1年経過時の顎運動の計測,可視化を行い術前術後の違いが観察できる.これは日常臨床の中でも診断に結び付けられるデジタルソリューションの新たな場面でもありえるが,診断基準の設定などの問題点がある. 結論:顎運動計測装置を用いて顎運動と咬合面接触の関係を画像で見ることで,動的な咬合干渉の回避と,静的な咬頭嵌合位の安定が比較できた.しかし,長期的な歯の保全に必要不可欠な力のコントロールという点において,臨床での咬合実践学からみた長期症例の検証により1アナログデンティストリーの有用性が十分に確認できたが,今後デジタルデンティストリーにおいてもこの分野での発展が期待される.
  • 谷尾 和正
    2024 年10 巻1 号 p. 92-100
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2025/08/04
    ジャーナル フリー
    症例の概要:酸蝕症によって口腔内が崩壊した患者に対し,Turnerの分類を参考にして治療計画を立案し,機能回復を図った2症例を報告する. 考察:酸蝕症による咬合崩壊患者を治療するにあたり,下顎位のずれの有無(中心位と最大咬頭嵌合位),tooth wearの進行速度による代償的な歯の挺出,咬合高径の低下の有無など,個々の患者を把握し,治療しなければ良好な治療結果は得られない.また,クラウン・オクルーザルベニア・ラミネートベニアを使い分け,さまざまな状態を有する患者に合わせた治療計画を立案し,良好な咬合(アンテリアカップリング・バーティカルストップ),歯周組織の安定を図ることが必要である. 結論:生活スタイルや嗜好品を把握し,Turnerのtooth wearの分類を参考に,個々の患者の酸蝕症の進行状態に合わせ,可能であればMI(minimaly invasive)を考慮した治療を行うことにより,長期的な口腔機能および審美性の改善を行うことができる.
  • 本多 浩二
    2024 年10 巻1 号 p. 102-109
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2025/08/04
    ジャーナル フリー
    補綴治療において歯のポジションは非常に重要であり,特に良好なアンテリアガイダンスが獲得できなければ,矯正歯科治療が必要となる.しかしながら,骨格的な問題により咬合状態に問題があるのであれば,外科矯正が必要となる.今回,骨格性下顎前突に対して,外科医,矯正医と連携して補綴治療を行った症例を報告する.
  • 中島 圭治
    2024 年10 巻1 号 p. 110-121
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2025/08/04
    ジャーナル フリー
    症例の概要:咬合平面の垂直的な変化や回転は下顎位にも影響を与え,結果的にocclusal cantとみなされる.これらは,骨格性または歯性に由来する可能性があり,顔面非対称にも関連すると言われている.また上顎の咬合平面傾斜と下顎の側方偏位が関係しており,下顎偏位側に向かって上顎咬合平面が上方偏位することが多いと報告され1,臨床的には機能と審美性に大きな影響を及ぼす2, 3.今回,歯性のocclusal cantを有し,多数の欠損歯,保存不可能な歯を認める患者に対し,顎位を変更して,インプラント治療と矯正歯科治療を行い良好な結果を得られた症例を報告する. 考察:審美性の基準となる上顎中切歯の位置を決定し,適正な水平的顎位と咬合高径を設定することで,歯の位置異常を把握し治療計画を立案した.これらを指標として,圧下をともなう歯の移動を行い,審美性の改善と機能の回復を行ったことで良好な結果が得られたと考察できる. 結論:審美治療を行ううえで,口腔内の診断のみならず,つねに顔貌レベルからの診断が重要であり,機能性と調和させることにより,より安定した予後が期待できる.
  • 8年フォローアップ症例報告
    川原 淳, 間中 道郎
    2024 年10 巻1 号 p. 122-132
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2025/08/04
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は初診時43歳の女性.金属の補綴装置からセラミックスの補綴装置へのやり替えを希望された.顔貌は口唇閉鎖不全を呈し,口腔内所見は犬歯間の開咬と軽度叢生,臼歯部には多数の補綴装置が装着され,咬頭嵌合位は不安定であった. セファロ所見より,下顎骨の後退位による軽度骨格性Ⅱ級開咬と診断.両側犬歯の咬耗を手がかりに,犬歯が咬合するまで咬合調整後,下顎前歯部の限局矯正治療と上顎側切歯のノンプレップベニアなどで修復治療を行った.4年後,犬歯切縁のコンポジットレジンの喪失をベニアチップで対応した.さらにそれから4年後も咬合は安定している. 考察:下顎のわずかな反時計方向の回転を認め,口唇閉鎖を獲得した. 結論:咬耗の形跡は,咬合高径の指標となった.軽度の開咬・叢生において,ノンプレップベニアは審美的および被蓋改善に有効と示唆された.
  • 松尾 幸一
    2024 年10 巻1 号 p. 134-139
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2025/08/04
    ジャーナル フリー
    症例の概要:下顎前歯部の叢生が起因して上顎前歯部の歯内療法や補綴装置の予後を不良にすることは多い.患者は38歳,女性.7の銀歯が取れた,上顎前歯の根元にたびたび違和感がある,口を開ける時に右の顎関節が時々痛むという主訴で2010年2月来院.本症例では,下顎位や上下顎の咬合状態,トゥースポジションを矯正歯科治療で改善し,その下顎位をアキシオグラフで確認し,最終補綴装置を装着.術後10年が経過し,機能的・審美的に良好な予後が観察できたので報告する. 考察:不正咬合をともなう患者の口腔内では術前に考察した中心位のまま矯正歯科治療を進行させることは難しく,矯正歯科治療後に補綴治療によりさらに厳密に咬合関係を再構成する必要がある.咬合再構成治療において正しい顆頭位を判断するために矯正歯科治療前にアキシオグラフを使用することが望ましいと考えられる.なぜならば正しい顆頭位のもとで歯の移動量が現実的に可能かどうかを判断するほうが,歯の移動量を正確に計画できる可能性が高く,かつ歯冠補綴歯数を減らすことができる可能性が高いからである. 結論:アキシオグラフを初診時や矯正後に用いることで的確な下顎位や上下顎の歯の位置関係を求めることができ,切歯路角と顆路角を正確に再現した口腔内では予後不良とされる失活歯や残存歯質の少ない歯冠補綴歯でも延命させることが可能であると考えられる.アキシオグラフを矯正歯科治療後に使用することは,咬合再構成治療において顆頭の静的および動的な状態の確認としては重要なことであるが,矯正歯科治療の限界を補綴治療でリカバリーする側面があるため,補綴治療を行う歯数は多くなる傾向になると考えられる.
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