日本プロテオーム学会誌
Online ISSN : 2432-2776
ISSN-L : 2432-2776
7 巻, 2 号
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2022年学会賞受賞者論文
総合論文
  • 榊原 陽一
    2022 年 7 巻 2 号 p. 27-35
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/14
    ジャーナル フリー

    翻訳後修飾としてのチロシン硫酸化はタンパク質の分泌のためのシグナルや活性調節機構として考えられている.我々は長年このチロシン硫酸化に関与する酵素Tyrosylprotein Sulfotransferaseを研究し,その立体構造を解明し基質タンパク質認識機構などに新たな知見を得た.宮崎県地域結集型共同研究事業において,「食の機能を中心としたがん予防基盤技術創出」に関わり,新規食品機能評価技術として,プロテオミクスによるバイオマーカーの探索と定量,情報科学的なニューラルネットワーク解析による機能性推定を組み合わせた革新的な技術を確立した.さらに,タンパク質の修飾と食品機能の関係に着目し,食品の抗酸化作用をタンパク質の酸化傷害レベルを指標に評価するという考えに着想し,タンパク質のカルボニル化やS-ニトロシル化などのレドックスバランスに関連したタンパク質修飾の解析法を開発した.ブランド豚肉,地鶏などの地域の食材のプロテオーム解析や成分分析にも貢献した.

  • 本田 一文
    2022 年 7 巻 2 号 p. 37-46
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/14
    ジャーナル フリー

    膵がんは難治がんである.手術可能な膵がんやそのリスク集団を囲い込みができる血液バイオマーカーを開発できれば,効率的な膵がん検診法の開発につながり,死亡率を減少できる可能性がある.膵がん患者とそのリスク集団,類縁良性疾患,健常者の血液中の循環ペプチドを網羅的にスクリーニングし,膵がんならびにそのリスク集団でapolipoprotein-A2二量体のC末端アミノ酸が特殊な切断を受けることを発見した(apolipoprotein-A2 isoforms; apoA2-i).同知見を臨床応用するために,apoA2-iの切断状態を定量分析するenzyme-linked immuno-sorbent assay(ELISA)検査系を構築し,その臨床開発を進めている.

    体外診断用医薬品(in vitro diagnostics; IVD)新規測定項目の薬事承認取得には,臨床性能試験が必要であり,独立行政法人医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency, PMDA)とプロトコル相談を経て臨床性能試験を実施する.がん早期発見に資するバイオマーカーを社会実装するために「がん早期発見迅速検証プラットフォーム(Platform of Evaluation for Biomarker of Cancer Early Detection, P-EBED)」を構築し,バイオマーカーシーズの臨床性能検証やIVD申請支援を開始した.

    本稿では,上記について概説する.

2022年奨励賞受賞者論文
総説
  • 津曲 和哉, 西田 紘士, 張 智翔, 石濱 泰
    2022 年 7 巻 2 号 p. 47-52
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/14
    ジャーナル フリー

    多くの膜タンパク質は,エクトドメインシェディング(シェディング)と呼ばれる切断を受ける.例えば,膜型リガンドのシェディングは,リガンドが離れた細胞の受容体に結合することを可能にする.シェディングは,シグナル伝達などによって厳密に制御されているため,特定の条件下においてシェディングを受ける基質を知るためには,プロテオミクスによる網羅的な解析が有効である.膜タンパク質は比較的発現量が少ないものが多いため,効率的なシェディング基質解析のためには,事前に基質の濃縮を行った後,LC/MS/MSで測定することが重要である.本稿では,シェディングの網羅的解析に必要不可欠な3つのプロテオミクス関連技術:1)多くの膜タンパク質には糖鎖修飾が施されていることに着目し,それを対象とした分泌タンパク質解析法,2)細胞表面タンパク質のN末端を特異的に標識し濃縮することができるタンパク質末端解析法,および3)最近我々のグループが開発した,シェディング基質切断部位の同定にも応用可能な高感度タンパク質両末端解析法について紹介する.

総合論文
  • 大塚 洋一
    2022 年 7 巻 2 号 p. 53-62
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/14
    ジャーナル フリー

    疾患機構の解明や診断・治療の高度化には,細胞の変容を区別しうるイメージング技術が求められている.生体組織に含まれる分子群の分布を可視化する質量分析イメージングは,分子夾雑な細胞ネットワークのローカルな化学状態の変化を捉えるために有用である.本総説では,細胞スケールで,脂質やタンパク質の空間分布情報を計測するための先端技術の進展と,それらの生体組織のイメージングへの適用について概説する.微小領域の成分を高感度に計測するためのイオン化法や,試料の前処理法,質量分析装置の進展により,計測できる分子種が拡張されてきた.液体クロマトグラフィー質量分析法を用いたオミクス計測では得られない,疾患組織の不均一化に関与する分子群の分布情報は,生命科学研究の発展に資する.生体成分を詳細に計測するための基盤要素技術の研究開発と,それらを活用する実試料の研究の融合推進がより一層求められている.

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